役員の社会保険(健康保険・国民年金保険)加入義務と手続き方法

従業員と比べると、役員は働く時間や日数、報酬の有無がバラバラなので、社会保険への加入義務があるかどうか、判断しにくいことがあります。

結論からお伝えすると、適用事業所(※)で常時使用される人(労務の対価として給料や賃金を受けとっている人)は社会保険への加入義務があります。

※ 適用事業所とは、社会保険に加入している事業所(働く場所や建物)のこと

社会保険への加入義務がないといわれているのは、無報酬の役員と非常勤の役員です。報酬が発生していなければ社会保険への加入義務はないので、無報酬役員の社会保険加入義務については判断がしやすいです。

一方、非常勤役員の場合、どのからどこまでが非常勤役員にあたるのか、法律で明確に決まっているわけではありません(役員の社会保険加入義務を判断するうえで一番迷うであろうポイントです)。

この記事では、社会保険に加入する義務がある役員と、加入する義務がない役員の条件をご説明したうえで、加入義務があった場合はどんな手続きをすれば良いのかご説明します。

※この記事での社会保険とは、健康保険と国民年金保険のことをさすものとします。

役員になったときの労働保険(雇用保険・労災保険)の取り扱いや手続きについては、以下の記事でご説明します。

なぜ役員は雇用保険・労災保険に加入できない?代わりに使える制度紹介


社会保険には入れても労働保険には入れないことがあります。加入条件の違いがわからない、という方はあわせてご参考ください。

役員の社会保険加入義務|無報酬・非常勤役員に加入義務はないが…

他の労働者と同じように、経常的に会社で働いて報酬を受け取っている役員の方は、社会保険への加入義務があります

例外として、以下の方は社会保険への加入義務がないことがあります。

  • 無報酬の役員:給与を受け取っていないので常時使用される人に当てはまらない
  • 非常勤の役員:働き方の実態に応じて個別の判断が必要

特に非常勤の役員については、どこからどこまでが非常勤にあてはまるのか法律で明確に決まっていないため、役員の社会保険加入義務について考える際に最も迷いやすいポイントです。

ここからは、役員の社会保険加入義務について、法律上どのような取り決めになっているのかをご説明します。

編集部
法律上どのような取り決めになっているか、という理屈に関する部分なので、社会保険への加入義務があるかどうか、自分である程度判断・把握できるようになりたい方のみご参考ください。

法律上、社会保険の加入義務があるのはこんな人

健康保険・厚生年金保険の適用事業所で使用される者は、社会保険の被保険者にあたるとされています。

この法律において「被保険者」とは、適用事業所に使用される者及び任意継続被保険者をいう。

引用元:健康保険法第3条

適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金保険の被保険者とする。

引用元:厚生年金保険法第9条

使用される者とは?

使用される者とは、法人から労務の対償として報酬を受けている者のことです。

役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用され

る者として被保険者とする(昭和 24 年 7 月 28 日保発第 74 号通知)

引用元:○疑義照会回答(厚生年金保険 適用)

※疑義照会とは、法令の解釈が不明確な場合に、年金事務所などが本部に問い合わせをすること

上記の疑義照会から、無報酬であれば社会保険の被保険者にあたらないことがわかります。

非常勤役員は社会保険への加入義務があるのか?

適用事業所で使用され、労務の対価として報酬を受け取っていれば、常勤・非常勤を問わずに社会保険の被保険者になるのでしょうか?

非常勤役員に社会保険への加入義務があるかどうかについて、疑義照会では次のように判断をするように、と言っています。

法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断されたい。(昭和 27 年12 月 4日保文発第 7241号)

経営に参加する仕事を継続的にしていて、その対価として継続的に報酬を受け取っているかどうか、というような内容が書かれています。

常勤か非常勤か判断する基準|判断が難しい場合は年金事務所に確認を

別の疑義照会にて、より具体的な判断材料が例示されています。

【役員が常勤か非常勤か判断する基準】

1.当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか。

2.当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか。

3.当該法人の役員会等に出席しているかどうか。

4.当該法人の役員への連絡調整または職員に対する指揮監督に従事しているかどうか。

5.当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか。

6.当該法人等より支払いを受ける報酬が、社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか。

引用元:疑義照会回答(受付番号No.2010-77)

上記6点より総合的に判断をしなければいけません。この条件に当てはまる非常勤役員は社会保険に加入する義務がある、と条文ではっきり書かれているわけではないので、働き方次第では自己判断が難しいことがあります。

明確な答えを得たい場合は、年金事務所や社労士に問い合わせをするのが無難です。

こんなときはどうする?立場別・役員の社会保険加入義務

役員の社会保険加入義務について、上記でお伝えした内容の要点は次の3点です。

  1. 適用事業所で使用される者(労務の対償として報酬を受けている者)は社会保険への加入義務がある
  2. 無報酬の役員は、社会保険への加入義務がない
  3. 非常勤の役員は、社会保険への加入義務がないこともあるが、働き方の実態次第では加入が必要なことも(判断がつきにくいことがある)

以下では、上記3点を踏まえつつ、どんな働き方をしている役員に社会保険への加入義務があるのか、個別具体的にご説明します。加入義務が発生する根拠について、同じ説明が重複するので、ご自身に関係がある箇所のみご参考いただければ幸いです。

社会保険への加入義務が…
ないケースバイケース

(勤務実態に応じて個別に判断が必要)

ある

(非常勤・無報酬でない前提)

・無報酬役員・非常勤役員

・みなし役員

・代表取締役・常勤役員

・兼務役員

・複数会社の兼業役員

無報酬役員は健康保険・厚生年金保険への加入義務はないが…

法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断されたい。(昭和 27 年12 月 4日保文発第 7241号)

業務の対価として経常的に支払いを受けていないので、無報酬役員は健康保険・厚生年金保険への加入義務はありません。

「保険料と年金を払わなくていいの?無報酬も検討しようかな」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、役員報酬を0にした場合は国民健康保険・国民年金保険への加入が必要になることが多いです。

編集部
国民健康保険料は、前年度の所得に基づいて計算されます。役員報酬をゼロにして健康保険に加入しない場合、前年度の所得によってはむしろ国民健康保険料の方が高額になることも考えられます。役員報酬の金額をいくらにするのかについては、税理士や社労士と話し合いをして判断するのが安全です。

非常勤役員の社会保険加入義務は個別に判断するのが無難

非常勤役員の場合は、社会保険への加入義務が発生するかどうかはケースバイケースです。経営への参画に関する仕事を経常的にしていて、その対価を経常的に受け取っていると社会保険への加入義務が発生しそうです。

疑義照会回答(受付番号No.2010-77)をもとに、社会保険への加入義務がなさそうな役員の例をいくつかあげます。

【社会保険への加入義務がない非常勤役員の具体例】

  • 定期的に出社しない
  • 労働者への指揮監督をする権限がない
  • 当該企業での役員職以外にも、いくつかの職に携わっている
  • 役員会等にほとんど出席していない
  • アドバイザーとしてのみ働き、日常的な経営決定や事業運営には関与していない
  • 実質的には名誉職に近く、報酬が実際の業務に対する対価としてではなく、交通費や通信費などの実費弁償に近い

みなし役員は、働き方の実態に基づいて社会保険への加入を判断する

みなし役員とは、役員として登記をしていなくても税法上役員にあたる人のことです。

どんな人がみなし役員に該当するかについて、詳細はNo.5200 役員の範囲|国税庁をご覧ください。

みなし役員は税法上役員に当てはまるかどうか?という文脈でよく使われる言葉です。社会保険への加入義務については、働き方の実態に基づいて判断することになります。

経常的に法人に使用されていて、報酬を受け取っている(非常勤役員・無報酬役員でない)のであれば、社会保険に加入する必要があります。

代表取締役・常勤役員は社会保険への加入義務がある

経常的に経営に携わっていて、役員報酬が発生しているのであれば、社会保険への加入が必要です。

兼務役員は社会保険への加入義務がある

役員兼従業員の場合は、常勤の役員や従業員と同じように社会保険への加入義務があります。

ただし、役員としての代表権・業務執行権を持っていたり、労働者としての給与よりも役員報酬の方が高いような場合は、労働者性がなくなるので雇用保険に加入できないことがあります。

兼務役員の雇用保険加入条件については別の記事で詳しくご説明します。

複数会社の役員を兼業する場合の社会保険の取り扱い

無報酬・非常勤ではない前提で複数会社の役員をする場合の社会保険の取り扱いについて説明します。

要点は以下2点です。

  1. 主たる事業所を1社選んで手続きをする
  2. 役員報酬の合計を按分して各社の保険料を計算する

主たる事業所を1社選んで手続きをする

複数会社の役員をする場合、1社を選択して管轄の年金事務所・保険者を決定します。

編集部
1社の社会保険にだけ加入すればいいという意味ではありません。被保険者の要件を満たしていれば、複数事業所の被保険者になります。

役員になってから10日以内に『健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届』、5日以内に『健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届』を提出する必要があります。『【状況別】役員になったときの社会保険手続き』にて具体的な手続き方法を後述します。

役員報酬の合計を按分して各社の保険料を計算する

複数会社の役員をする場合、各社の役員報酬を合計した金額(標準報酬月額)に保険料率をかけて合計の保険料を計算します。各社の報酬金額に応じて保険料を按分し、各社の保険料を決定します。

【各事業所の保険料の計算例】

ステップ1:標準報酬月額(役員報酬の合計)を計算する

  • 事業所Aの役員報酬=30万円
  • 事業所Bの役員報酬=20万円

標準報酬月額は50万円(30万円+20万円)

ステップ2:健康保険料・厚生年金保険料を計算する

標準報酬月額に健康保険・厚生年金保険の保険料率をかけると合計の保険料を計算できます。

被保険者の方の健康保険料額(令和 5年 3月~)のような早見表で調べると便利です(手続きをするときは、最新の保険料率に基づいて計算してください)。

標準報酬月額50万円の方の保険料は…

  • 健康保険料:50000円
  • 厚生年金保険料:91500円

ステップ3:各事業所の保険料を計算する(按分する)

  • 事業所Aの健康保険料 30000円=50000円×30万円/50万円
  • 事業所Aの厚生年金保険料 54900円=91500円×30万円/50万円
  • 事業所Bの健康保険料 20000円=50000円×20万円/50万円
  • 事業所Bの厚生年金保険料 36600=91500円×20万円/50万円

【状況別】役員になったときの社会保険手続き|記入例・添付書類・提出期限

役員になったときに対応が必要な社会保険手続きをご紹介します。

  1. 法人化直後など、初めて社会保険に加入する手続き
  2. 役員として働きはじめたとき(被保険者の要件を初めて満たしたとき)の手続き
  3. 兼業役員になったときの手続き

法人化直後など、初めて社会保険に加入する手続き

法人化をしたときや、個人事業主が常時5人以上人を雇用するときは、事業所を社会保険に加入させる手続きが必要です。

法人化をして役員になったときなどに必要な手続きです。

役員や従業員を社会保険に加入させるためには、前提として以下『健康保険・厚生年金保険新規適用届』または『健康保険・厚生年金保険任意適用申請書・同意書(任意で社会保険の適用事業所になる手続き)』を提出している必要があります。

手続き名健康保険・厚生年金保険新規適用届
入手方法・入手先新規適用届|日本年金機構
記入例記入例|日本年金機構
添付書類・必要書類法人登記簿謄本

法人番号指定通知書のコピー

個人事業主のみ:事業主の世帯全員の住民票

個人事業主のみ:代表者の公租公課の領収書1年分

提出先会社がある地域を所轄する年金事務所
提出方法郵送、窓口持参、電子申請
提出期限会社設立から5日以内
詳細

※手続きをする際に必ずご確認ください

手続きの詳細説明

こちらの手続きは事業所が社会保険の適用を受けるときの手続きなので、初回のみ対応すればOKです。既に手続きをして適用事業所になっている場合は手続き不要です。

初めて社会保険に加入する際の手続きや詳しい加入義務については、以下の記事でご説明しています。

社会保険(健康保険・厚生年金)加入手続きをサクッと終わらせる方法

役員として働きはじめたとき(被保険者の要件を初めて満たしたとき)の手続き

初めて社会保険の被保険者の要件を満たしたときは、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。

正社員から役員になったときのように、既に届出をしているような場合は手続き不要です。

手続き名健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
入手方法・入手先健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届|日本年金機構
記入例記入例|日本年金機構
添付書類・必要書類原則不要

60 歳以上の方が、退職後 1 日の間もなく再雇用された場合①と②両方又は③

① 就業規則、退職辞令の写し(退職日の確認ができるものに限る)

② 雇用契約書の写し(継続して再雇用されたことが分かるものに限る)

③ 「退職日」及び「再雇用された日」に関する事業主の証明書

提出先事務センターまたは管轄の年金事務所
提出方法郵送、窓口持参、電子申請
提出期限資格取得日から5日以内
詳細

※手続きをする際に必ずご確認ください

手続きの詳細説明

兼業役員になったときの手続き

複数の適用事業所で役員になり、複数の適用事業所で社会保険の被保険者の要件を満たす働き方をする場合は、メインの事業所と年金事務所を選んで手続きをする必要があります。上でお伝えした『健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届』を前提として提出しつつ、以下『健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択/二以上事業所勤務届』を提出しましょう。

手続き名健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択/二以上事業所勤務届
入手方法・入手先健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択/二以上事業所勤務届
記入例健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択/二以上事業所勤務届
添付書類・必要書類1.マイナンバーを確認できる書類(住民票鬱ち、通知カードなど)

2.身元確認書類(運転免許証、パスポート、在留カードなど)

提出先選択した事業所の所在地を管轄する事務センターまたは年金事務所
提出方法郵送、窓口持参、電子申請
提出期限事実発生から10日以内
詳細

※手続きをする際に必ずご確認ください

手続きの詳細説明

まとめ

役員の社会保険(健康保険・国民年金保険)加入義務と手続き方法について、重要な点は次のとおりです。

  • 加入義務のある役員:法人に常時使用される人(労務の対価として給料や賃金を受け取っている人)は、社会保険への加入義務があります。
  • 加入義務がない役員:無報酬の役員と非常勤の役員は、社会保険への加入義務がない。
  • 非常勤役員の判断:非常勤役員が社会保険に加入するべきかどうかの判断は、働き方の実態に応じて個別に判断する。
  • 非常勤役員の判断基準:事業所に定期的に出勤しているか、役員会に出席しているか、職員に対する指揮監督に従事しているかなど、複数の要因を勘案して判断する。
  • 手続き方法:役員として社会保険に加入する場合、新規適用届や被保険者資格取得届の提出が必要(従業員を雇用した場合と同じ手続き)
  • 複数会社の役員の手続き:複数の会社で役員を務める場合、役員報酬の合計に基づき保険料を計算し、主たる事業所を選んで手続きを行います。
  • 国民健康保険・国民年金保険への影響:無報酬役員の場合、社会保険への加入義務はありませんが、国民健康保険や国民年金保険への加入が必要になることがあります。
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