2022年4月1日から全ての企業でハラスメント相談窓口設置が義務化されました。
窓口を設置しない場合は、厚生労働省大臣から勧告をされます。これに従わない場合は20万円以下の過料に処されるほか、企業名が公表される恐れがあります。
どのようなハラスメント相談窓口を設置すれば義務違反になるリスクが低いのでしょうか?
この記事では、ハラスメント窓口を設置する際に企業がやるべきことを、厚生労働省の告示をもとにご説明します。
ハラスメント相談窓口設置義務化に対応するためのやること一覧|参考:厚生労働省告示
義務違反にならないようなハラスメント相談窓口を設置するために経営者が対応するべきポイントを、厚生労働省の告示をもとにご説明します。
対応するべきことは大まかに次の4つです。
- ルール決める
- 周知・啓発する
- 相談への適切な対応ができる体制をつくる
- 再発防止の取り組みをする
ハラスメント相談窓口設置義務化に関する厚生労働省の告示全文
ハラスメント相談窓口設置義務化について、厚生労働省の原文を確認したい方は以下をご参考ください。
こちらをご確認いただければ、義務違反をしないためにどんな窓口を設置すればいいのかがわかります。ただ、原文を読むのはなかなか大変なので、この記事では義務違反にならないために経営者がやるべきことについて説明している部分だけをピックアップしてご説明します。
ルール決める
従業員への周知や研修をする前に、決めておいた方がいいポイント4つをご説明します。
- 社内窓口にするか社外窓口にするか決める
- ハラスメント相談窓口で対応するべき内容を確認しておく
- 就業規則への追記をどうするか
- 懲戒規定への追記をどうするか
社内窓口にするか社外窓口にするか決める
相談窓口を設置する際は、以下の選択肢があり得ます。
- 社内窓口:従業員の誰かが相談員をする
- 社外窓口:社労士や弁護士、民間企業など、専門知識を持つ相談員が対応する
社内に人事労務に詳しい方がいればその方が対応しても大丈夫ですし、他の業務にリソースを割きたい場合や、「内部の人には相談しにくい」といった声に配慮するような場合などは外部の窓口を選ぶといいでしょう。
社内窓口と社外窓口のどちらにするか判断する際のポイントについては、『ハラスメント相談窓口は社内窓口・社外窓口どちらを設置すべきか?判断のポイント』にて後述します。
ハラスメント相談窓口で対応するべき内容を確認しておく
今回対策が義務化されたのはパワハラについてですが、セクハラ、マタハラ、その他のハラスメントについても対策をしましょうと厚生労働省の公告には書かれています。
最近はいろんなハラスメントの造語が出てきていてキリがないようにも思えますが、職場での上下関係を悪用し、弱い立場にある人間に嫌がらせをする行為全般を禁止する方向で考えておくと良さそうです。
以下の行為がパワハラにあたります。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
- 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
就業規則への追記をどうするか
就業規則にハラスメントの禁止に関する追記が必要な理由は、ハラスメントの定義と懲戒の内容が就業規則に書かれていない場合、問題を起こした従業員への処分が懲戒権の濫用で無効になる恐れがあるからです。
就業規則にハラスメントの禁止について追記をする際は、自社におけるハラスメントの定義をするか、法律上の定義を選ぶのかを考える必要があります。狙いがない限りは法律上の定義を使って問題ないでしょう。
法律上のパワハラの定義は次のとおりです。
職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
引用元:労働施策総合推進法第30条の2
就業規則には具体的にどのような文章を追加すればいいのでしょうか?
厚生労働省のモデル就業規則には、次のように記載されています。
(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上
必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなこと
をしてはならない。
(セクシュアルハラスメントの禁止)
第13条 性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害す
るようなことをしてはならない。
(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
第14条 妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は
措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしては
ならない。
(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第15条 第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言
動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境
を害するようなことをしてはならない。
引用元:モデル就業規則|厚生労働省
上記のモデル就業規則や厚生労働省の公告では、パワハラ、セクハラ、マタハラ、その他のハラスメント、という分け方になっているので、ハラスメントの定義をする際はこの程度の粒度で良さそうです。
懲戒規定への追記をどうするか
パワハラ、セクハラ、マタハラ、その他のハラスメントが、懲戒事由にあたる旨を懲戒規定に追記しましょう。
厚生労働省の懲戒規定例では次のように記述しています。
(懲戒の事由)
第 条 次のいずれかに該当するときは、その情状により、けん責又は減給に処する。
⑤~⑥ 略
⑥ 職場内において、性的な言動によって他人に不快な思いをさせたり、職場の環境を悪くしたとき。
⑦ 職場内において、妊娠、出産、育児休業等に関する言動により、部下や同僚の就業環境を害し
たとき。
⑧ 職場内において、職場内の優位性を背景に、部下等へ業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為を行ったとき。
引用元:懲戒規定例|厚生労働省
上記に加えて、ハラスメントをした際の懲戒の内容も検討した上で、懲戒規定に追記しましょう。比較的軽微なハラスメントであれば、けん責(注意して始末書を書かせる)、減給、降格などの対応が考えられます。暴力のような刑事事件になるようなハラスメントの場合は、懲戒解雇が妥当な場合もあります。
周知・啓発する
経営者には、ハラスメントに関する理解を深めて、ハラスメントをしないよう従業員に周知したり、研修をしたりする責任があります。(労働施策総合推進法第30条の3第2項)
次の段取りで周知をするとスムーズです。
- 就業規則や服務規定に、①ハラスメントを禁止する旨と、②ハラスメントをした際の懲戒規定を追記する
- ハラスメントに関する基礎知識、社内規則で禁じている旨、懲戒規定がある旨を、社内報やパンフレットなどで伝える。加えて、研修・講習を行う
- 相談をしたことを理由に相談者が不利益を被ることはないと伝える(不利益な取扱いの禁止)
ハラスメントの基礎知識について研修をする際は、以下のような資料を参考にされるといいでしょう。
相談への適切な対応ができる体制をつくる
上記厚生労働省のページには、ハラスメントの相談を受けたときにどのように対応するべきかが書かれています。要点は次のとおりです。
相談窓口での対応や目的について共有する
窓口でどんな相談ができるのか、相談後はどのような対応をするのかなど、安心して相談できる環境を作れるように、相談窓口の全体像を共有しましょう。
この段階で共有するといいのは次のような点です。
- ハラスメントの相談窓口を設置した旨
- どんな相談ができるのか(パワハラだけでなくセクハラやマタハラなどの相談もできる旨を伝える)
- どんな行為がハラスメントにあたるのか
- 相談者のプライバシーは守られること
- 相談者への不利益扱いは法律で禁止されているので安心して相談できること
- 相談後どのような対応をするのか
相談時の対応方法を社内の相談者に共有する
相談者が萎縮せずに安心して話ができる環境を作ったり、聞き方をしたりする必要があります。
相談後は事実確認が必要なので、事実確認に向けて被害内容の全体像を確認しましょう。
聞くべきことは例えば…
- 具体的にいつどこでどのようなことをされたのか
- ハラスメントをされた原因や経緯
- 目撃者はいるか
- 今後どんな対応を望むのか
- 他に伝えたいことや確認したいことはあるか
ハラスメントの相談をされたときはどんな対応をして何を聞けばいいのかわからない方もいらっしゃるかと思います。そんな方には、以下の総務省消防庁のテキストが参考になるかと思います。
相談を受けた際にどのような対応をすればいいのかがまとめられているので、一読されると安心かと思います。
相談後は事実確認をする
目撃者や加害者に話を聞き、相談者の主張の内容と一致しない部分があるかどうかを確認します。
相談内容がハラスメントにはあたらない場合もありえるので、中立的な立場で事実を確かめる必要があります。
相談者と加害者の双方に話を聞き、客観的に事実を把握したうえで今後の対応を検討しましょう。
相談者へのフォローをする
以下のような対応をして、相談者が今後ハラスメントをされないようなフォローをしましょう。
- 相談者と加害者を引き離すための配置転換
- 加害者の謝罪
- 相談者が不利益を被っていた場合は、不利益の解消
加害者への対応をする
調査の結果、ハラスメントにあたる行為をしていた場合は、以下の対応をしましょう。
- 再発防止のために研修などを受けさせる
- 懲戒規定に基づいて適切な処分を行う
再発防止の取り組みをする
再発防止に向けた措置を講じること、と厚生労働省の公告には書かれていますが、具体的な再発防止の方法については書かれていません。
再発防止策としては、周知の徹底やトップからの発言をすることなどが考えられますが、実態を把握するためには定期的に匿名のアンケートをとる方法がおすすめです。
ハラスメントに限らず問題を完全に予防するのは困難なので、早期発見ができる仕組みを構築するのが現実的ではないでしょうか。
匿名のアンケートであれば、誰が何を相談したのか周囲に知られる心配はないので、より被害に遭っている旨を伝えやすくなります。相談内容が深刻な場合は、さらに調査をして問題の解決を目指すことになります。
相談内容が他人に漏れない旨を伝えるなど相談のハードルを下げることが重要です。
ハラスメント相談窓口は社内窓口・社外窓口どちらを設置すべきか?判断のポイント
相談窓口を設置する際は、次の選択肢があります。
- 従業員の誰かに対応を任せる社内の相談窓口を設置する
- 社外の相談窓口を設置する
以下、ハラスメント相談窓口の設置を社内で対応するのか、社外に依頼するのか判断する際のポイントをご説明します。
社内の相談窓口で十分なケース
以下の3点ができれば、義務違反にはなりにくいので社内の窓口で十分でしょう。
- 厚生労働省の告示を読み込んだうえで、告示に書かれている対応ができる
- ハラスメントの予防と再発防止が社内で完結できる
- 1と2についての疑問少ない、疑問があっても自力で解決できる
社外の相談窓口を選ぶのが無難なケース
- 法律や人事労務、メンタルヘルスに詳しい相談員候補が社内にいない
- 専門知識を持った相談員候補がいるが、既に忙しい
- ハラスメント相談窓口設置〜再発防止策の実施までのイメージがわかない
- 相談員への研修が必要そう(外注費用より教育費用+人件費の方がかかりそう)
ハラスメントへの対応や人事労務の専門知識を持つ従業員が不足している場合は、社労士や弁護士のようなプロに任せるのが安全です。
ハラスメント相談窓口を外部委託した際の費用相場は、最安で月額5000円~5万円程度です。サポートを充実させたり、従業員の人数が増えたりした場合は費用が上がります。
社労士に相談窓口を委託したときに、自社の場合はいくらくらいかかるのか、以下より無料で一括見積もり可能です。お得に相談窓口を設置したい方はお気軽にお試しください。
行政の相談先には無料で相談できるが、外部のハラスメント相談窓口を設置する目的では使えない
なお、外部の相談窓口を利用する場合は、有料の窓口を使うことになります。
厚生労働省や労働局は無料で相談できるハラスメント相談窓口を設置していますが、これを外部相談窓口として設置することはできません。
外部相談窓口に社労士を選ぶメリット
社労士は人事労務に関する専門家なので、ハラスメントをはじめとした従業員を扱う際の法律や対応方法をよく知っています。そのため、ハラスメント窓口の対応を安心して任せられます。以下、ハラスメントの相談窓口を社労士に外部委託するメリットをご説明します。
- ハラスメント予防や再発防止を期待しやすい
- 就業規則や懲戒規定の内容を相談できる
- 就業規則への追記も依頼可能
ハラスメント予防や再発防止を期待しやすい
厚生労働省の告示を見ても、ハラスメントを完全に予防できるような具体的な方法が書いてあるわけではありません。社内窓口を設置するだけでも一定の予防効果を期待できますが、ルール決め、担当者の教育、問題発生時の対応と再発防止策の実行を全て手探りで進める必要があります。
社内で対応できないこともありませんが、適切な人がいなかったり、担当者候補の方が既に忙しかったりすることもあります。
社労士は既に経験と知識を持っているので、最初から適切な対応ができます。
就業規則や懲戒規定の内容を相談できる
ハラスメントの定義をどうするか、何をしたらどの程度の罰を与えるのか、の2点を考えて就業規則に追記する必要があります。法律上の定義をそのまま使ってもいいですが、もっと幅広い迷惑行為をカバーするような追記をした方が、より広範囲のハラスメントに類する行為を予防できます。
また、行為の程度に応じた罰を設定しないと、罰が重すぎれば逆に不当解雇などを主張されることもあり得ます。何をしたらどの程度の罰を与えるのが適切なのかを社労士と相談してから決められます。
就業規則への追記も依頼可能
上記で相談したハラスメントの定義と、行為に対する処罰の内容を、適切な文面で就業規則に社労士が追記します。
社労士は将来起こり得るリスクを想定してルールを決めたり、就業規則に追記をしたりするのが得意な職業なので、ハラスメントを予防して従業員が仕事に専念できるクリーンな職場を作りやすくなります。
ハラスメント相談窓口を設置しないとどうなる?罰則・企業名公開などのリスクがある
ハラスメント相談窓口を設置しない場合、次のようなリスクが想定されます。
- 企業名公開など、行政処分を受けることも
- 20万円以下の過料に処される恐れがある
- 加害者だけでなく企業にも損害賠償請求がされることも
企業名公開など、行政処分を受けることも
ハラスメント相談窓口を設置しないと、行政から勧告を受けることがあります。勧告に従わなければ、企業名が公開される恐れがあります(労働施策総合推進法第33条)。
20万円以下の過料に処される恐れがある
厚生労働省大臣は事業主に対して、雇用管理に必要な措置を講じているか、報告を求めることができます。
報告をしなかったり、嘘の報告をしたりした場合は、20万円以下の過料に処される恐れがあります(労働施策総合推進法第36条第1項、同法41条)。
加害者だけでなく企業にも損害賠償請求がされることも
こちらは設置義務に違反したリスクではなく、ハラスメントを止められずに問題が申告になった場合のリスクです。
パワハラの被害者は、加害者だけでなく企業にも損害賠償請求ができます。損害賠償請求の根拠は、使用者責任・安全配慮義務違反の2点です。
使用者責任とは
従業員が他人に損害を与えた場合、従業員だけでなく事業主も損害賠償責任を負います(民法715条)。
安全配慮義務とは
事業主には、被雇用者が安全に働けるように配慮する義務があります(労働契約法第5条)。
まとめ
ハラスメント相談窓口を設置する際に、企業がどのような対応をすればいいのかについては、以下の厚生労働省のページに書かれています。
社内窓口を設置するのであれば、一読する必要があるでしょう。
社外窓口を設置する場合は、弁護士や社労士、民間企業から委託先を選ぶことになります。社労士は人の雇用に関する法律に詳しい職業なので、ハラスメントに関連する問題が大きくなる前に早期解決できるような仕組みを構築するのが得意です。
当サイトより社労士の一括見積もりができるので、外部相談窓口を検討されている方はお気軽にお申し込みください。