雇用保険に未加入だった場合、会社と従業員にそれぞれ次のようなリスクがあります。
- 会社(事業主):悪質性が高い場合は刑事罰の対象になったり、従業員や元従業員から損害賠償請求をされたりするリスク
- 従業員:(過去の保険料を支払わない限り)雇用保険の保障を受けられない。例えば失業後職を探すときに手当を受け取れないので、生活費の確保が難しくなるリスク
加入手続きを忘れていたことに気付いた時にすぐ対応をすれば、上記ほど大事にならずに済む可能性が高いです。
以下、雇用保険の加入条件について確認したうえで、雇用保険未加入によるリスクや手続きの進め方についてご説明します。
会社(事業主)と従業員がそれぞれどうすればいいのか、立場別にご説明します。ご自身の立場にあった箇所をご参考ください。
雇用保険への加入条件|未加入だとまずいのはこんなとき
雇用保険への加入条件を満たしていなければ、未加入だったとしても問題はありません。
未加入のリスクを知る前に、雇用保険への加入条件を再確認しましょう。
雇用保険への加入条件を満たす会社
1人でも人を雇っていたら、労働保険(雇用保険・労災保険)が適用されるので、成立手続きをしなければなりません。
雇用保険への加入条件を満たす労働者
以下の両方に当てはまる働き方をする方は雇用保険に加入する必要があります。加入手続きは事業主や人事労務担当者が行います。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上である
- 31日以上の雇用見込みがある
なお、社会保険への加入要件は雇用保険の加入要件と異なります。社会保険への加入手続きをしていない方は以下の記事もご確認ください。
雇用保険未加入だった場合の会社へのデメリット
雇用保険の加入手続きをしなかった場合、企業にとっては次のようなリスクがあります。
- 雇用保険未加入には罰則がある
- 従業員・元従業員に損害賠償されうる
- 捕捉:労災保険未加入時のリスクは特に高い
雇用保険未加入には罰則がある
従業員の通報を受けた労働局が、企業に対して雇用保険に加入するよう指導・勧告することがあります。これを無視して加入手続きをしないと、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される恐れがあります。
従業員・元従業員に損害賠償されうる
従業員を雇用保険に加入させなかった場合、その人は失業給付のような雇用保険の保障を受けられません。このように、雇用保険への加入手続きをしなかったことにより、元従業員が失業給付を受け取れなかったような場合は、会社に対して損害賠償請求をされることも考えられます。
捕捉:労災保険未加入時のリスクは特に高い
労働保険の成立手続きをしていない場合は労災保険にも加入していません。労災保険未加入のリスクも高いので補足でお伝えします。
労災保険に加入するよう指導を受けたにもかかわらず労災保険に加入していない状態で労災被害が発生した場合、労災被害者へ支払われる給付金の40%または100%を企業が支払わなければならなくなります。
労災保険未加入のリスクについては以下の記事でより詳しくご案内します。
雇用保険未加入による従業員へのデメリット
雇用保険未加入でいた場合の従業員へのデメリットを見ていきましょう。
- 過去の保険料を支払わなければ雇用保険の手当・給付を受けられない
- 会社が保険料を支払うまで手当をもらうための手続きを進められない
- 補足:雇用保険料を払わないと、どんな手当・給付を受けられないのか?
過去の保険料を支払わなければ雇用保険の手当・給付を受けられない
雇用保険に入っていなかった場合も、遡って加入して保険料を支払えば、雇用保険の手当や給付を受けられます。
雇用保険料は会社と労働者が負担します。給与明細から雇用保険料が差し引かれていれば追加での支払いは必要ありませんが、差し引かれていなかった場合は労働者も過去の保険料を最大2年まで遡って支払わなければなりません。雇用保険に加入して保険料を支払うよう、会社に伝える必要があります。
会社が保険料を支払うまで手当をもらうための手続きを進められない
雇用保険の手当や給付を受けるための手続きを進めるのが遅れるリスクがあります。会社が雇用保険への加入手続きをして、保険料の支払いをするまで待たなければならないからです。
補足:雇用保険料を払わないと、どんな手当・給付を受けられないのか?
雇用保険料を払わないと、雇用保険の保障を受けられなくなります。
利用できなくなる手当・給付は次のとおりです。
- 基本手当:失業をしてから新しい就職先を見つけるまでにもらえる手当
- 就職促進給付:再就職のための手当や、短期訓練のための手当など
- 教育訓練給付:厚生労働大臣指定の教育訓練の費用の一部を給付。スキルアップやキャリアチェンジに使える
- 雇用継続給付:高年齢雇用継続給付、介護休業給付
- 育児休業給付:育休期間中に一定金額の給付を得られる
雇用保険未加入だった場合の会社の対応|遡って加入手続きをしましょう
雇用保険に未加入だった場合、気付いたタイミングで加入手続きをするのが基本的な対応です。
具体的な対応の進め方について、以下3点をご説明します。
- 書類の提出先(ハローワーク・労働基準監督署)に確認してから手続きを進めるのが無難
- 会社(≒事業所)が雇用保険未加入だった場合の手続き
- 従業員が雇用保険未加入だった場合の手続き
書類の提出先(ハローワーク・労働基準監督署)に確認してから手続きを進めるのが無難
締め切りを過ぎてから加入をする場合、過去に遡って加入をし、過去の保険料の支払いを命じられることもあります。ただし、行政の判断によっては、新規加入扱いになる場合もあります。新規加入扱いになった場合、加入後の保険料だけを支払えば問題ありません。
行政の判断次第で取り扱いが変わるので、提出先のハローワークや労働基準監督署に確認をしてから手続きを進めるのが無難です。
会社が雇用保険未加入だった場合の手続き
労働保険保険関係成立届を、企業がある地域を管轄する労働基準監督署に提出しましょう。
受領印が押された労働保険保険関係成立届事業主控及び確認書類等に、雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を添付して企業がある地域を管轄するハローワークに提出します。
ただし、農林水産、建設、港湾運送業の場合は書類の提出先が異なります。
以下の記事の『雇用保険の適用を受けるための手続き(初回のみ)』にて、業種別の書類の提出先、添付書類、記入例などを詳しくご説明しています。手続きの進め方をより詳しく知りたい方は併せてご参考ください。
従業員が雇用保険未加入だった場合の手続き
通常と同じように、雇用保険被保険者資格取得届をハローワークに提出しましょう。期限を過ぎた場合は、遅延理由書などの添付書類が必要です。
手続き名 | 雇用保険被保険者資格取得届 |
入手方法・入手先 | ハローワーク インターネットサービスより印刷 |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
提出先 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
提出方法 | 窓口持参 (手続きが遅れている場合は電子申請不可) |
添付書類 | 提出が遅れた場合のみ以下の書類が必要です。 ・遅延理由書(サンプル) 【遅延理由書に以下を添付】 ・直近2年間の全労働者の労働者名簿、賃金台帳、出勤簿 ・雇用契約書または労働条件通知書 ・その他、安定所が指示した書類(直近2年間の源泉所得税の領収済通知書など) |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明(2ページ目) |
雇用保険未加入だった場合の従業員の対応
雇用保険の加入手続きを会社にしてもらえなかった従業員側の対応をご説明します。
- 事業主や人事労務担当者に雇用保険に加入するよう伝える
- ハローワークに相談する
事業主や人事労務担当者に雇用保険に加入するよう伝える
加入義務があるのに未加入だった正社員・アルバイトの方はどう対応すればいいのでしょうか?
雇用保険への加入手続きは、事業主や人事労務担当者が行います。雇用保険への加入をするように事業主や人事労務担当者に伝えましょう。説明が難しい場合はこの記事や、雇用保険への加入義務について説明しているハローワークのページのURLを送ると楽です。
ハローワークに相談する
上記の対応をしても事業主が雇用保険加入手続きをしない場合は、ハローワークに相談しましょう。ハローワークが会社に対して、雇用保険に加入するよう指導してくれます。
まとめ
- 雇用保険未加入の場合、企業には刑事罰や損害賠償請求のリスクが、従業員は雇用保険の保障をすぐに受けられないリスクがある
- 雇用保険への加入義務があるのは、1人以上を雇用する事業所と、週20時間以上、31日以上の雇用見込みがある労働者
- 会社は加入手続きを忘れた場合、速やかに対応することでリスクを最小限に抑えられる
- 従業員は雇用保険未加入の場合、過去の保険料を支払うことで手当や給付を受けられる
- 従業員は加入手続きを会社に促し、対応してもらえない場合はハローワークに相談をする