「会社を退職したので、しばらく失業保険を受け取って生活しよう」
退職者として当然考えることです。しかし、実際に失業保険がどのようなものか十分に理解している労働者は多くないかもしれません。
今回は失業保険の受給資格や申請手続等について、解説していきます。
失業保険からの給付を受ける際「会社都合」「自己都合」による違い
失業保険の給付を受けるとき、退職理由が「会社都合」か「自己都合」かによって取扱いが異なります。
会社都合とは、リストラなどの「会社側の理由による退職」、自己都合とは「転職や独立など労働者側の理由による退職」です。以下では会社都合と自己都合の何が違うのか、みていきましょう。
給付金支払開始日や支給額などの違い
会社都合退職 | 自己都合退職 | |
失業保険を受け取れる時期(給付制限期間の有無) | 退職の7日後から | 退職の3か月と7日後から |
給付日数 | 90~330日間 | 90~150日間 |
最大支給額 | 約260万円 | 約118万円 |
国民健康保険料の納付 | 軽減を受けられる | 通常通り全額納付 |
このように、会社都合退職と自己都合退職とでは「失業保険を受け取れる時期」や「給付日数」「最大支給額」などについて大きな違いがあります。詳細は次の「会社都合のメリット」の項目で説明しますが、明らかに会社都合退職の方が労働者にとって有利です。
そもそも会社都合退職になる理由とは
会社都合退職になる理由としては以下のようなものが考えられます。
- リストラ
- 解雇
- 会社の倒産
- 事業所が移転して通勤が困難となった
- 労働条件が約束と大きく異なっていたのでやむなく退職した
失業保険からの給付が「会社都合」によるメリット
「会社都合退職」によって失業保険を受給する場合、「自己都合退職」と比べて以下のようなメリットを受けられます。
退職後すぐに給付金が受け取れる
1つは「退職後すぐに失業保険を受け取れる」ことです。会社都合退職の場合、退職後7日が経過すれば失業保険の受給が可能です。
一方自己都合退職の場合、退職後の3か月は給付制限期間となりますので、この期間と7日の待機期間が経過しなければ失業保険を受給できません。3か月間は自力で何とか生活を維持しなければならないので負担が大きくなります。
支給期間が長くなる
会社都合退職と自己都合退職を比べると、会社都合退職の方が失業保険の給付期間が大幅に長くなります。
会社都合退職なら最長で330日間受け取れますが、自己都合退職なら最長でも150日間です。長期間受け取れる方が高い安心感を得られるので労働者にとっては大きなメリットとなるでしょう。
給付金の最大支給額が増える
会社都合退職と自己都合退職を比べると、給付金の最大支給額も異なります。自己都合退職の場合には最大でも118万円程度しか受け取れませんが、会社都合退職なら最大で260万円程度も受け取れます。倍以上の開きがあり、明らかに会社都合退職の方が大きなメリットを受けられます。
国民健康保険税の軽減が受けられる
会社を辞めて収入がなくなったら、国民健康保険料の納付が困難となる方も多いでしょう。しかし自己都合退職の場合、国民健康保険料の減免措置を適用されないので、全額払う必要があります。
一方会社都合退職の場合、国民健康保険料額の計算は「前年度の給与所得額の30%」を基準として計算されるため、納付金額が大きく下がります。この減額措置を適用されるのは基本的に退職の翌年の3月末までの期間です。
国民健康保険料の減額措置を適用されることも、会社都合退職の大きなメリットといえるでしょう。
解雇予告手当てを受け取れる可能性がある
会社から「解雇」された場合には、「解雇予告手当」を受け取れる場合もあります。
会社は労働者を解雇するとき30日前に解雇予告をするかその日数に満たない分の解雇予告手当を支払う必要があります。そのため、労働者が30日予告期間なしに解雇(普通解雇、懲戒解雇)された場合には、解雇予告手当を受け取ることができるのが原則です。
失業保険の給付金を受け取れる条件
会社を辞めたり解雇されたりしても、必ず失業保険を受給できるとは限りません。給付を受けるための「条件(受給資格)」が認められるのは以下のケースです。
受給条件
- 労働の意思と能力がある
- 失業者に「働く」意思と実際に働ける能力が必要です。そもそも就労を再開する意思がない場合や病気やけがなどで働くことのできない場合は失業保険を受け取れません。そのため、失業保険の受給期間中は求職活動を行い、ハローワークに定期的な報告が必要となります。過去2年間に計12か月以上の雇用保険加入期間がある
基本的に、退職前の2年間に計12か月以上の雇用保険加入期間が必要です。ただし会社都合退職の場合、退職前の1年間に計6か月間の雇用保険期間があれば足ります。この点でも会社都合退職の場合は自己都合退職よりも有利といえるでしょう。
失業保険を受け取れない場合
以下のような場合、失業保険を受け取ることができません。
- 退職後に求職活動をしない
- 病気、けが、出産・育児のため働けない
- 退職して再就職した
なお、敢えて求職活動をしていない場合や病気やけがで働けない場合でも、受給期間内に求職活動を開始すれば、残りの期間内で失業保険を受け取れる可能性があります。
失業保険の給付金申請の6つの手順
失業保険を受け取りたい場合、以下の手順で手続きを進めましょう。
1:まずは離職票を受け取る
失業保険を受給するには「離職票」が必要です。離職票は会社から労働者へと交付されるものなので、会社へ離職票の発行と交付を求めましょう。
離職票を発行する前提として、会社がハローワークへ「離職証明書」を提出する必要があります。離職証明書を受け取ったハローワークが会社へ離職票を返し、会社がその離職票を労働者へ交付する扱いとなっているからです。
そこで退職時には、会社に必ず離職票を送るように念押ししましょう。通常は退職後10日程度もあれば自宅宛に離職票が送られてきます。退職後2週間くらい経っても離職票が送られてこない場合、会社側へ離職票を渡すように督促しましょう。
もしも会社側の対応が悪質で離職票を故意に渡さないなどの対応をしているなら、ハローワークに事情を話して相談してみてください。ハローワークの側から会社へ離職証明書の提出を促してくれる可能性があります。
2:ハローワークに申請に行く
会社から離職票が送られてきたら、ハローワークへ失業保険の申請に行きましょう。
その際に必要な書類や資料は以下のとおりです。
- 雇用保険の申請書(就職先に希望する条件やこれまで経験した職業の内容等を記入します)
- 雇用保険被保険者離職票−1
- 雇用保険被保険者離職票−2
- マイナンバーを確認できる資料(マイナンバーカード、マイナンバー通知カード、マイナンバーの記載のある住民票など)
- 本人確認証明書(運転免許証、マイナンバーカード、年金手帳など)
- 印鑑
- 写真2枚(縦3cm×横5cm)
- 失業保険を振り込んでもらうための預金口座番号がわかるもの(通帳など)
3:担当官と面談する
ハローワークに申請に行くと、担当職員との面談が行われます。簡単なやり取りがあり、特に問題がなければ失業保険の受給手続きが進められます。
4:説明会に参加する
面談が終わっても、すぐに失業保険を受け取れるわけではありません。必ず「説明会」に参加する必要があります。説明会の日時はハローワークが指定するので、その日は予定を空けておきましょう。
失業保険の仕組みや注意点などの説明があり、終わると「雇用保険受給者資格証」と「失業認定申告書」が配布されます。これらは両方とも実際に失業保険を受け取るのに必要な書類です。
5:失業の認定を受ける
説明会が終わったら「失業の認定」を受けます。失業の認定を受けるには、実際に求職活動をしている必要があります。初回の場合、説明会から1~3週間くらい経って失業認定が行われます。
6:失業保険が振り込まれる
失業の認定を受けると、会社都合であれば7日の待機期間経過後、自己都合であれば更に3ヶ月の制限期間経過後に失業保険金が振り込まれます。その後も失業保険を受け取りたければ、1回目の失業認定日から数えて4週間に1度の頻度でハローワークへ通って現状報告を行い、失業の認定を受け続ける必要があります。
退職理由について異議がある場合
会社の離職票が「自己都合退職」として作成されていても、労働者側でこれに異議がある場合もあるでしょう。この場合、ハローワークに対し異議がある旨申告すれば、ハローワークがこれを調査します。調査の結果、実態は会社都合であれば、会社都合退職として処理されます。
会社都合となる場合は例えば以下のようなケースです。
会社の倒産
会社が倒産したためにやむなく退職した場合や解雇された場合には、会社都合退職となります。
事業所単位で1ヶ月30人以上、会社の3分の1以上の大規模な退職
いわゆる「リストラ」が行われた場合です。「1つの事業所で」1か月に30人以上カットされたことが基準となるので、カットされる労働者の数は「営業所ごと」に判断されます。複数の営業所がある会社では「1つ1つの営業所で1か月に30人以上がカットされたこと」が必要であり、「会社全体で30人がカット」されても必ずしも該当しないので注意が必要です。
また会社全体としては一気に3分の1以上の人員がカットされれば会社都合退職になります。
勤務地・労働時間等が採用条件と大幅な違いがあった場合
前職で、会社から説明を受けていた労働条件と実際に適用される労働条件に大幅な隔たりがあったためやむなく退職した場合には会社都合退職となります。
また勤務地の変更があり、通勤が困難となったためにやむなく退職した場合にも会社都合退職となります。
賃金の大幅な減額や未払い
給料が大幅に減額された、あるいは未払いになっているのでやむなく退職した場合にも、会社都合退職扱いにできます。
心身に危害が及びやむを得ない退職
たとえ自ら退職したとしても、その理由が「心身に危害が及ぶ可能性があったため」であれば会社都合退職と同じ扱いにしてもらえる可能性があります。このように会社都合退職と同様の扱いを受けられる失業者を「特定受給資格者」といいます。
たとえばパワハラを受けて精神的に持たなかった、労働条件が劣悪すぎて身体を壊しそうになっていたなどの状況があれば特定受給資格者と認められる可能性があるので、遠慮せずにハローワークに相談してみましょう。
肉親の死亡や介護等で退職せざるを得なくなった
親の介護が必要になって退職せざるを得なくなったケースや、親の死亡のために自宅の近くに移らざるを得なくなり仕事を続けられなくなったケースなどでも「特定受給資格者」としてもらえる可能性があります。該当する状況があるならハローワークに事情を伝えて相談してみてください。
失業時に受給できるその他の給付金7選
実は失業時に受給できる可能性がある給付金は「失業保険」に限りません。以下のようなものも受け取れる可能性があるので、一度検討してみてください。
1技能習得手当
雇用保険から給付される手当です。パソコン操作や介護、医療、IT、プログラミング等の職業訓練を受ける際、基本手当である失業保険とは別途受講手当を受給できます。職業訓練施設へ通う交通費も「通所手当」として支給されます。
2傷病手当
ハローワークにおける求職の申込み後、負傷や病気によって15日以上継続的に働けなくなったら、雇用保険から傷病手当金を受け取れる可能性があります。金額は基本手当(失業保険)と同額です。
受給するにはハローワークで「傷病の認定」を受ける必要があります。
3特例一時金
季節労働者などの短期雇用労働者の方は「特例一時金」という給付を受け取れる可能性があります。短期労働者の場合、「2年以内に12か月の雇用保険加入」の要件を満たしにくいので、こうした特例がもうけられています。
受給できる条件は以下の通りです。
- 短期雇用特例被保険者に該当する
- 労働の意思と能力があるが、職場が見つからない
- 退職前の1年間に雇用保険加入期間が6か月以上ある
金額は、通常の失業保険日額の40日分となります。
4日雇労働求職者給付金
雇用期間が30日以内の日雇い派遣労働者が失業したときに雇用保険から給付されるお金です。ハローワークで失業認定を受けると給付金を受け取れる可能性があります。
金額は「日雇手帳」における等級によって異なります。1級なら日額7,500円、2級なら日額6,200円、3級なら日額4,100円として計算され、給付日数は13~17日間となります。
5就職促進給付
失業者の再就職を支援するための給付金です。
- 早期に再就職できた場合の「再就職手当」
- 再就職手当の支給対象にならない職業に就いた場合の「就業手当」
- 再就職先での給料額が前職より少ないときに「就業促進定着手当」
- 中高年や障害者が再就職したときに「常用就職支度手当」
- ハローワークからの紹介を受けて遠方の求人先を訪問する際の交通費や宿泊料として「広域求職活動費」
- 1か月未満の教育訓練を受けた場合に「短期訓練受講費」
- 就職活動の際に利用した保育サービス費用を負担してもらえる「求職活動関係役務利用費」
再就職手当や就業促進定着手当を受け取れる場合、失業保険(基本給付)より多額となるケースもあります。
6教育訓練給付金
医療事務やエンジニア、美容や製菓、自動車整備、ペットトリマーなどの教育訓練を受ける際に受講費用の一部が支給されます。支給額は経費の20%です。
7高年齢雇用継続給付
60歳以上65歳未満の方が失業、再就職したときに給付されるお金です。
- 高年齢雇用継続基本給付金…失業手当を受給せず再就職した場合に支給。定年退職後引き続き雇用形態を変えて再雇用されるケースでも支給対象となります。
- 高年齢再就職給付金…失業手当受給後に再就職した場合に支給
失業保険(雇用保険の基本給付)にとらわれず、上記のいずれかの給付金を受け取れる可能性があるなら、漏れの無いように申請して受け取りましょう。
まとめ
失業した場合、「会社都合退職」になると労働者側に圧倒的に有利になるので、可能な限り「会社都合退職」してもらうべきです。会社が自己都合退職として処理していても、労働者が異議を述べることで取扱いを変更してもらえる可能性もあります。離職票に「自己都合退職」と書かれて3か月の給付制限を受けて困ったときには、泣き寝入りをせずにハローワークや労働問題に詳しい社労士に相談してみてくださいね。