キャリアアップ助成金の対象労働者が退職してしまった場合、助成金は受け取れなくなってしまうのでしょうか。
結論からお伝えすると、受給要件を満たしていれば助成金は支給されますが、退職理由や退職のタイミングによっては不受給になることがあります。
不受給になるのは次のような場合です
- 会社都合により解雇・退職勧奨した
- 支給申請時に退職していた
この記事では、キャリアアップ助成金の対象労働者が退職した場合に知っておきたい知識についてご説明します。
支給申請日に離職していない労働者であること
キャリアアップ助成金の支給申請日に離職をしていた場合は、助成金を受給できなくなります。
ただし、以下の理由に当てはまる場合は例外となり、助成金を受給できます。
- 自己都合退職
- 天災などのやむを得ない理由で事業の継続が難しくなった場合の解雇
- 懲戒解雇は除く
詳細は、『キャリアアップ助成金が不受給になる退職理由・ならない退職理由』にて後述します。
なお、支給申請日とは(正社員コースの場合)、転換日以降の賃金6ヶ月分を支給した日の翌日から2ヶ月以内の期間のことをいいます。
したがって、正規雇用転換をしても、6ヶ月分の賃金が支給されておらず、助成金の申請をしていないような場合は助成金を受け取れなくなります。
支給申請日を経過してからの離職であれば、他の受給要件を満たしている限り助成金の支給を受けられます。
キャリアアップ助成金が不受給になる解雇のタイミング
『キャリアアップ助成金のご案内|厚生労働省』では、助成金の受給対象になる事業主の要件をあげています。
正社員コースの場合は、転換日前日の前後6ヶ月、合計1年の間に対象労働者を会社都合で離職させた事業主は受給の対象外となります。
他のコースの場合は、受給対象になる事業主に関して、解雇の時期に関する要件は見られませんが、制度施行日や措置の実行日以降6ヶ月分の賃金を支給していることが受給の要件として定められている場合が多いです。
キャリアアップ助成金が不受給になる退職理由・ならない退職理由
支給申請日までに当該従業員を会社都合で解雇した場合は助成金不受給になるとお伝えしましたが、ここでは解雇理由について詳しく解説をしていきます。
助成金不支給になる退職理由
基本的に会社都合で解雇をした場合は不受給になりますが、それ以外の理由の場合も不受給になることがあります。
会社都合で解雇をした
事業主側に原因があり、合意なく従業員を退職させることを解雇といいます。解雇には①普通解雇、②整理解雇、③懲戒解雇の3種類があり、当該期間に①②の解雇をした場合は助成を受けられません。
また、当該期間に会社都合による退職勧奨をした場合も同様となります。
退職勧奨などを理由に自己都合退職した
自己都合退職の場合であっても、企業の側に原因があるような場合は不受給になることがあります。具体的には、退職勧奨、事業縮小、賃金低下などの理由であった場合は、自己都合退職でも助成金は受給されません。
特定受給資格者の割合にも注意が必要
特定受給資格者にあたる離職者の数が、全被保険者数の6%を超えており、かつ特定受給資格者が4人以上の場合は受給を受けられません。
ハローワークインターネットサービスでは、特定受給資格者の範囲についての定義をしています。
その一例を挙げると…
- 賃金の1/3を超える金額が支払い期日までに支払われず離職した者
- 労働契約締結時に明示された労働条件が、現実の労働条件と異なり離職した者
- 賃金額が以前の賃金額の85%未満に低下したことによって離職した者
- 次のいずれかの理由で離職した者。離職直前の6ヶ月に、①3ヶ月連続で45時間以上の時間外労働をした②1ヶ月100時間以上の時間外労働をした③連続する2ヶ月以上の期間の時間外労働を平均して、1ヶ月あたり80時間を超える時間外労働をした
- ハラスメントにより離職した者
- 使用者の責めに帰すべき事由により、3ヶ月以上連続して休業したことによって離職した者
対象労働者が4人以上退職しているような場合は、『特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要|ハローワークインターネットサービス』にて特定受給資格者の詳細な範囲をご確認ください。
助成金不支給にならない退職理由
一方、会社に責めに帰すべき事由がないような理由で退職している場合は、受給を受けられます。
具体的には…
- 自己都合退職をした
- 天災などのやむを得ない理由で退職をした
- 懲戒解雇をした
キャリアアップ助成金の対象労働者が離職する際の注意点
最後に、キャリアアップ助成金の対象労働者が離職をした場合に覚えておきたい注意点を3つお伝えします。
退職届は保管しておく
助成金の支給決定のために事業所の実地調査がされたり、書類などの提出を求められたりすることがあります。
当該従業員が退職した場合は、会社都合ではないことを証明するために、退職届を受け取っておくことをおすすめします。退職届が手元にあれば、国から退職理由を確認された時に自己都合による退職であったことを証明しやすくなります。
解雇したのに助成金が支給された場合は返還する
基本的に支給申請日前に当該従業員が退職している場合、助成金は支給されませんが、万が一支給申請日前に従業員を解雇しているにもかかわらず助成金が支給された場合は、助成金を返還する必要があります。
助成金の不正受給が発覚すると、次のようなリスクがあります。
- 3年間雇用関係の助成金の申請ができなくなる
- 労働局のホームページに社名が公表される
- 詐欺罪、私文書偽造罪などで検挙されることがある
- 逮捕された場合は報道されることがある
社名の公表や報道などがなされた場合は、取引先や顧客からの信用が低下し、事業経営に大きな支障を及ぼします。
どうしても解雇が避けられない場合は申請後に解雇する
基本的に支給申請日以前に解雇をすると助成金を受給できなくなりますが、やむを得ない理由で対象の従業員に退職勧奨や解雇をしなければならないこともあるかと思います。
このような場合は、支給申請日を過ぎてから解雇するようにしましょう。自己都合による離職をさせるために交渉などをすると受給条件を満たさないので、助成金は受け取れません。
キャリアアップ助成金の要件を満たそうとすると、自ずと対象労働者の定着や待遇改善が図られることになります。したがって、退職勧奨や解雇をしなければならなくなる労働者は、助成金の対象にしないのが無難です。
まとめ
キャリアアップ助成金の対象労働者が離職した場合でも、支給の要件を満たしていれば給付金は受け取れます。支給申請日以前に離職し、転換日以降6ヶ月分の賃金を支払ってない場合や、会社の責めに帰すべき事由により離職した場合は助成金を受け取れなくなります。