社会保険入らないとどうなる?百害あって一利なし12のリスク

加入要請や警告を無視して社会保険に入らなかった場合、事業主は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される恐れがあります。

さらに、過去2年分の保険料に延滞金を加えた金額を徴収されます。

この記事では、社会保険の加入義務があるのはどんな人なのかを前提知識として説明した上で、加入義務のある人が社会保険に入らないとどうなるのかをご紹介します。事業主と従業員それぞれのリスクをご紹介しているので、目次よりご自身に関係ある箇所を探し、ご参考ください。

最後に、社会保険に加入する際の手続き方法をご紹介しているので、つい社会保険に入らないままきてしまった、という方はこちらもご参考ください。

目次

前提知識:社会保険に入る義務があるのはこんな人

社会保険に入る義務がない企業や従業員であれば、社会保険に入らなくてもこの記事で説明するようなリスクを被る心配はありません。

具体的なリスクの説明をする前に、まずご自身やご自身の会社が社会保険に加入する義務があるかどうか、ここで確認しておきましょう。

社会保険に入る義務がある企業

  1. すべての法人
  2. 従業員を常時5人以上雇用している個人事業主

参考:社会保険(厚生年金保険・健康保険)への加入手続はお済みですか?

編集部

「つい社会保険に加入せずにきてしまった」「悪気はなかったが手続きを進められなかった」という方は、後述『社会保険に加入するには?手続きの流れや必要書類をご紹介』より、社会保険への加入手続きを進めましょう。

社会保険に入る義務がある労働者

  • 社会保険の適用を受ける企業の正社員、法人代表者、役員
  • 労働時間が一定を超える従業員(1週間の所定労働時間及び1月の所定労働日数が通常の就労者の4分の3以上)
  • 以下の全てを満たす従業員

(a)週の所定労働時間が20時間以上

(b)勤務期間が1年以上見込まれること

(c)月額賃金が8.8万円以上

(d)学生以外

(e)従業員101人以上の企業に勤務

参考:従業員数100人以下の事業主のみなさまへ|厚生労働省

以下でご説明するリスクは、上記に該当する事業主、従業員の方にとって関係あることです。

社会保険入らないとどうなる?企業向け7つのリスク

まず事業主へのリスクをご説明します。従業員向けのリスクは後述しますので、従業員の方は読み進めていただければ幸いです。

社会保険に入らないと起こることは…

  1. 加入要請をされる
  2. 警告文章が届く
  3. 立入検査をされる
  4. 過去2年分の保険料を徴収される
  5. 延滞金が発生する
  6. 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される
  7. 未加入でいると、結局経営が傾きかねない

上記の中で特にリスクが高いのは4~7です。2までの段階で対応すれば、実害は少ないです。加入義務がある限り結局は保険料を払うことになるので、早めに対応したほうが出費と実害が少ないです。

加入要請をされる

社会保険に加入する義務があるのに社会保険に加入しないままでいると、年金事務所から電話や郵送で加入要請をされることがあります。

警告文章が届く

加入要請に応じない場合、立入調査の警告文章が届きます。この段階で社会保険に加入すれば、これまでの社会保険料を遡って請求されることはありません。遅くともこの段階で社会保険に加入すると、金銭的負担が少なく済みます。

立入検査をされる

警告文章を無視すると、立入調査をされることがあります。

立入調査をされたあとは、社会保険に強制加入させられます。

過去2年分の保険料を徴収される

立入調査を経て社会保険に強制加入させられた場合、過去2年分の保険料を徴収されます。

過去2年間を無保険状態で過ごしたにもかかわらず、この間の保険料だけを取られるので、お金を無駄にすることになります。

延滞金が発生する

納付期限の翌日から3ヶ月までは2.4%、それ以降は8.7%の延滞金が発生します(令和5年)。※パーセンテージは毎年変動します。

6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される

督促状に応じず社会保険料の滞納を続けたり立入調査などに応じなかったりすると、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される恐れがあります。

未加入でいると、結局経営が傾きかねない

社会保険にお金を使いたくない方もいらっしゃるかもしれませんが、加入義務があるのに未加入のままでいるのは結局リスクしかありません。

  • 強制加入をさせられた場合、過去2年分の保険料を従業員の人数分一度に請求されるので、まとまった金額が必要になる
  • 延滞金が発生する
  • 無保険状態で過ごすことになるので、例えば労災にあっても労災給付を得られない
  • 6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処される

社会保険・労働保険入らないとどうなる?従業員向け5つのリスク

社会保険(労働保険を含む)の加入義務がある従業員の方が保険に加入しないリスクは、社会保険の補償を受けられないことです。かんたんに説明すると、病気や事故、失業で働けなくなったときに、生活費のような出費を全額自己負担することになります。

以下、社会保険に加入しないことでどのような補償を受けられないのかをご説明します。

  1. 保険料が全額自己負担になる
  2. 健康保険の給付が受けられない
  3. 厚生年金の給付が受けられない
  4. 労災保険の給付が受けられない
  5. 雇用保険の給付が受けられない

保険料が全額自己負担になる

「自分は健康だし、使いもしないものに保険料を払いたくない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実は会社経由で社会保険に加入した方が、保険料の負担が少ないことをご存知でしたでしょうか?

会社の社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しない場合、もともと加入している国民健康保険と国民年金の支払いをすることになります。国民健康保険と国民年金の支払いは全額自己負担ですが、社会保険の場合は保険料の半分を会社が負担してくれます。

支払い金額の多さで考えるのであれば、社会保険に加入しない方が損をしています。

健康保険の給付が支給されなくなる

健康保険にはあって、国民健康保険にはない次の手当金を受け取れなくなります。

傷病手当金傷病で休業した場合、休業期間中に給与の2/3が支給される
出産手当金産休で休業した場合、休業期間中に給与の2/3が支給される

厚生年金の給付が支給されなくなる

厚生年金にはあって、国民年金保険にはない次の年金を受け取れなくなります。

障害厚生年金病気や怪我で障害を負った際に支給される
老齢厚生年金65際から受け取れる年金
遺族厚生年金被保険者が亡くなったとき、遺族にしたいして支払われる年金

労災保険の給付が支給されなくなる

労災にあっても給付を受けられなくなります。労災に遭うと、一定期間以上働けなくなったり、今までのように働けなくなって年収が下がったりすることもあります。もらえなくなる給付は…

療養給付治療費全額が支給される
休業給付休業をした場合、収入の8割相当が支給される
障害給付後遺障害が残った場合に、亡くなるまで一生涯の給付を得られる
傷病年金傷病が治るまでの間、給付を得られる
遺族給付亡くなった方のご家族に、一定期間の給付がなされる
葬祭給付一定額の葬儀費用が支給される
介護給付介護が必要になった場合に支給される

雇用保険の給付が支給されなくなる

就職や転職をする際に、無職になることもあるかもしれません。雇用保険に加入していることで、この期間に給付がなされるので、最低限の生活水準を維持しながら仕事を探せます。

雇用保険に加入せずに無職になった場合、次のような給付を得られません。

求職者給付前職の収入の5~8割程度が、仕事を見つけるまでの一定期間支給される
就職促進給付早めに転職できた場合に、基本手当の残日数に応じて給付がされる
教育訓練給付金厚生労働大臣が指定する一般教育訓練の受講を終了すると、受講料の20%、最大10万円が支給される
育児休業給付金育休取得時に、収入の最大67%が支給される

雇用保険の補償内容は他にも多数あるので、気になった方は調べてみてください。

社会保険の加入に関してよくあるQ&A

社会保険の加入にまつわるよくある疑問をご紹介します。

社会保険に入りたくないバイト・パートはどうすればいい?

社会保険の加入要件を満たさない働き方をすれば社会保険に入らないで大丈夫です。

社会保険の加入義務があるのは、以下の全てを満たす従業員です。

(a)週の所定労働時間が20時間以上

(b)勤務期間が1年以上見込まれること

(c)月額賃金が8.8万円以上

(d)学生以外

(e)従業員101人以上の企業に勤務

現実的なラインで考えると、aかcのどちらかを満たさないように働くのがいいでしょう。

うちは社会保険に加入していないと言われたらどうする?

以下の対応をしましょう。

  1. 会社に社会保険の加入義務があるか確認する
  2. 自身に社会保険への加入義務があるか確認する
  3. 行政機関に相談する
  4. 転職する

会社に社会保険の加入義務があるか確認する

お勤め先に社会保険に加入する義務があるかどうかを確認しましょう。

加入義務があると知っていて加入していない場合は、法令遵守の意識が低い企業です。労災にあった場合、無保険状態なので給付を受けられないような実害も考えられるので、早めに転職されることをおすすめします。

自身に社会保険への加入義務があるか確認する

ご自身に社会保険への加入義務があるか確かめましょう。

行政機関に相談する

この場合の相談先は、労働基準監督署や年金事務所です。ただ、行政機関がやってくれることは、法令違反をしている企業への指導がメインです(それ以外の要望に応えてもらう期待はできない)。

ただ、通報する場合はリスクもあって、行政から指導があったとしても、誰が通報をしたのか犯人探しが始まって、社内に居にくくなるリスクもあり得ます。

転職する

意図的に社会保険に加入しない企業は、労働者の安全を確保することを重要だと思っていない企業です。

社長を説得したり、行政に通報したりしても、自身の立場が悪くなるリスクもあるので、転職をするのが妥当な解決策ではないでしょうか。

「企業が社会保険に加入する気がなかったから」という転職理由は、明らかに企業に落ち度があるので、短期間での転職であったとしても、面接官にマイナスの印象を与える心配は少ないでしょう。

従業員に社会保険に入りたくないと言われたらどうすればいい?

対応の仕方としては、次のようなものがあり得ます。

  1. 合理的な理由があるか聞く
  2. なんとか説得する(社会保険の方が国民健康保険・国民年金保険よりも保険料の負担が少ない旨を伝える)
  3. 社会保険の加入義務がない労働条件を提案する

合理的な理由があるか聞く

いきなり正論を述べるよりも、まずは相手の言い分を一応聞いておくのが無難ではないでしょうか。

例えば、社会保険に加入する義務がない労働者であったり、社会保険の加入が義務付けられない労働時間ではたらきたい労働者であったりした場合は、合理的な理由があるので、特に揉めずに手続きを進められます。

なんとか説得する(社会保険の方が国民健康保険・国民年金保険よりも保険料の負担が少ない旨を伝える)

加入義務があるにもかかわらず、合理的な理由なしに、加入したくないと言っている場合は、なんとかして説得するしかありません。

加入は義務である(法律で決まっている)ことを伝えつつ、もともと入っている社会保険の場合は会社が保険料を半分負担するので、国民健康保険や国民年金よりも出費が少ない点などを説明するのも1つです。

社会保険の加入義務がない労働条件を提案する

それでも社会保険に加入したくないという場合は、加入義務が生じないような働き方をするしかないので、以下のような働き方を提案するのも1つです。

  • 週の所定労働時間が20時間未満におさえる
  • 月額賃金が8.8万円未満におさえる

社会保険に加入するには?手続きの流れや必要書類をご紹介

社会保険に初めて加入する際に提出しなければならない書類についてご案内します。

さらに、従業員を一人以上雇用している場合は労働保険にも加入する義務があります。加入義務がある方はこちらも併せて対応しましょう。

前提:立入検査や刑事罰を受けていないなら今すぐ加入するのが最も低リスクです

立入調査を受ける以降まで社会保険への加入が遅れてしまうと、過去2年の社会保険料と延滞金の支払いを命じられます。懲役刑・罰金刑に処されるリスクも。

立入調査を受ける前であれば、これからの社会保険料を払うだけでいいので、加入義務がある方はいますぐ加入されることをおすすめします。

社会保険に加入する際の手続き

社会保険に加入する際は、以下の書類を提出する必要があります。

社会保険に初めて加入する際の手続き提出先
【必須】健康保険・厚生年金保険新規適用届年金事務所
【必須】健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届年金事務所
【任意】健康保険被扶養者(異動)届年金事務所
【任意】健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書・同意書年金事務所
【任意】健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付申出書年金事務所

労働保険に加入する際の手続き

自社が一元適用事業か二元適用事業か確認する

業種によって、書類の提出先が変わります。まずは自社が一元適用事業と二元適用事業のどちらなのかをご確認ください。

説明具体例
一元適用事業労災保険・雇用保険の申請と納付を一元的に扱う事業二元適用事業(下)以外
二元適用事業労災保険・雇用保険の申請と納付を別々に扱う事業①都道府県及び市区町村が行う事業

②①に準ずるものの事業

③港湾労働法の適用される港湾の運送事業

④農林・水産の事業

⑤建設の事業

労働保険に初めて加入する際の手続き(一元適用事業)

順序提出書類提出先
1保険関係成立届労働基準監督署
2(1と同時も可)概算保険料申告書以下のいずれか

所轄の労働基準監督署

所轄の都道府県労働局

・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可)

3雇用保険適用事務所設置届管轄の公共職業安定所(ハローワーク)
4雇用保険被保険者資格取得届管轄の公共職業安定所(ハローワーク)

労働保険に初めて加入する際の手続き(二元適用事業)

順序提出書類提出先
1保険関係成立届管轄の公共職業安定所(ハローワーク)
2(1と同時も可)概算保険料申告書以下のいずれか

所轄の都道府県労働局

・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可)

3(1と同時も可)雇用保険適用事務所設置届管轄の公共職業安定所(ハローワーク)
4(1と同時も可)雇用保険被保険者資格取得届管轄の公共職業安定所(ハローワーク)

上記の書類の入手先、記入例、期限、添付書類など、手続きをする際に必要な情報を以下の記事にまとめています。

会社設立 (法人化) 時の 社会保険・労働保険の手続き・必要書類・記入例

社会保険加入が面倒な方は、外注する手もあります

加入手続き以外にも、労働者の状況が変化すると、たびたび社会保険・労働保険の手続きが発生します。

社会保険・労働保険手続き一覧|入手先・提出先・期限等の備忘録

上記記事の目次をご確認いただくとイメージしやすいですが、社会保険・労働保険の手続きは種類が多く、ケースによって添付書類が変わったりするなど結構時間を取られます。

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社会保険の手続きを処理する際の選択肢と、それぞれのメリットデメリットは…

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会社設立前後で社労士に依頼できる手続き・費用一覧|必要性も解説

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まとめ

社会保険に入らないと、事業主は懲役刑や罰金刑に処される恐れがあります。過去2年分の保険料に延滞金を追加した金額を従業員の人数分一度に請求されるので、資金繰りをかなり圧迫します。

従業員にとっても、社会保険の各種補償が受けられないので、病気や怪我で仕事を休んだり、働けなくなったりした場合になんの給付も得られなくなります。

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