平成30年1月に厚生労働省により「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が発表されました。働き方改革により勤務時間が減ることにより、ダブルワークで副業をする人が増えています。
副業を認めていなかった企業も労働規則を変えて副業を容認するようになるなど、今後ますます副業の存在感は増して行くでしょう。
- 副業をすることにより、労働時間が増えるとしたら残業代の扱いはどうなるのでしょうか?
- 労働時間が1日8時間、週40時間を超えてダブルワークをする場合はどちらの会社へ残業代の請求をするべきなのでしょうか?
ダブルワークで所定労働時間を超えて働く場合の残業代は、契約や働き方により支払う企業が異なります。
「せっかく働いているのに十分な残業代を受け取ることができない」など損をしないためにもダブルワークでの残業代の考え方や請求方法について紹介します。
ダブルワークでも残業代の請求は可能
ダブルワークであったとしても、所定の時間を超えて働く場合は残業代の請求をすることが可能です。ただし、残業代をきちんと支払ってもらうためにも、勤務先にダブルワークをしていることをきちんと申告することが大切になります。
もしダブルワークをすることになったら、副業として働く会社では面接時に述べるべきですし、本業で働く会社でも副業をすることを伝えておいた方がトラブルを避けることができるでしょう。
副業・兼業のダブルワークと残業代請求に関する事前知識
それでは、副業・兼業のダブルワークで残業代請求する前に知っておきたい残業代のルールについて説明します。
法定労働時間を超えての就業は協定を結ばないとしてはいけない
そもそも、労働基準法では法定労働時間が1日に8時間、週に40時間と定められています。しかし、この時間だけで仕事が終わらないということもあるでしょう。
(労働時間)第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用元:労働基準法第32条
このような場合には、事前に労働者の過半数が加入する労働組合、なければ労働者の過半数を代表するものと労使協定(36協定)を結ぶことで、法定労働時間を超えて就業させることができるようになります。
所定時間を超えて働く場合は割増賃金の支払いが必要
労働者を1日8時間、1週40時間を超えて働かせるのであれば、残業時間分は割増賃金の支払いが必要です。残業代は通常の賃金よりも1.25倍増し以上の割増の賃金(時間外労働手当)となります。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
引用元:労働基準法第37条
労働基準法38条では、「事業所を異にする場合にも適用される」と記載されているため、ダブルワークをする場合は、2社の労働時間が1日8時間、1週40時間を超えるのであれば残業代請求をすることができるのです。
残業代を支払わない場合は企業側に罰則
企業は残業をきちんと管理して正しい金額を支払うことができるような体制を構築する必要があります。残業代を支払わない企業に対しては、逮捕・送検され、労働基準法(労基法)により「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰を科せられます。(労働基準法第119条)
しかし、勤怠管理には「退勤」とした後にサービス残業を強要されるなどという劣悪な職場環境の場合もあるでしょう。このような場合は、自分で実際の退勤時間をメモをとったり、退勤時間の時計の写真を撮ったりなど証拠を取っておくことで後から残業代請求できる可能性があります。
泣き寝入りせずに自分が働いた分についてはきちんと請求するようにしましょう。
本業に秘密でダブルワークを行う場合、残業代請求は難しい
本業が副業を許可しておらず、本業には秘密でダブルワークをするというケースもあるでしょう。たとえば、本業で5時間・副業が3時間毎日働いているとして、本業で1時間残業になる場合、本来ならば本業に対して残業代請求をすることができます。
しかし、本業としては法定労働時間である8時間を超えなければ残業代として割増賃金の支払いをする必要がありません。そうなると、本業は通常賃金しか支払うことはないでしょう。
このような事情もあるので、本業に内緒でダブルワークをしているのであれば、残業代が発生したとしても残業代を請求するのは難しいです。
ダブルワークの残業代を請求する方法
ダブルワークにより発生した残業代を請求するにはどうすれば良いかを説明します。
所定労働時間の把握方法
ダブルワークをする場合、所定労働時間の1日8時間・1週間40時間を超えたところに残業代がかかります。そのため、企業と労働契約を結ぶ時にはきちんと法定時間が何時間になるかを把握して申告することが必要です。
なぜなら、副業として働く企業は本業の労働時間によっては恒常的に残業代を支払わなければいけないケースがあるからです。また、本業についても突発的な残業発生により残業代を支払わなくてはいけなくなるケースがあります。
2社の所定労働時間を通算すると、法定労働時間を超えてしまうパターン
2社の合計労働時間が法定労働時間の8時間を超えてしまうケースでは、基本的には後から労働契約を結んだ会社が残業代を支払うことになります。
たとえば、本業として1日5時間A社で働いており、副業としてB社で後から1日4時間働くことになった場合は、恒常的にB社で1時間ずつ残業が発生します。
この場合は、後から労働契約を結び働き出したB社が残業代を支払うことになります。本業で毎日法定労働時間の8時間働いて、副業で毎日2時間働くのであれば、副業についてはすべて残業扱いとなるのです。
2社の所定労働時間を通算しても、法定労働時間を超えないパターン
また、2社の合計労働時間が8時間を超えないケースでは、実際に残業が発生した方が残業代を支払うことになります。本業として1日4時間A社で働いており、副業としてB社で後から1日4時間働くことになった場合は、2社の合計労働時間は8時間となり法定労働時間の範囲内に収まります。
もしA社で1時間の残業が発生した場合は、A社が残業代を支払うことになるのです。
このように、契約や働き方によりどちらに残業代を請求するかが異なりますので、残業代請求をしたいのであれば本業・副業共にダブルワークの許可を得る必要があります。
残業代の計算方法
残業による割増賃金は、1時間あたりの通常賃金に残業による割増率をかけて計算します。割増率は原則1.25倍増し以上に設定することになります。
たとえば、1時間1,000円の通常賃金に1.25倍増しの割増率となる場合は
【1,000円(1時間あたりの通常賃金)×1.25(割増率)=1,250円(残業代)】となります。
更に、残業時間が月に60時間を超える場合の残業代は1.5倍増しとなります。
また、就業時間が午後22時から翌5時の時間帯の間に働く勤務も割増賃金となります。就業する時間が法定外残業で、さらに深夜勤務である場合、深夜勤務の割増率0.25倍と法定外残業の割増率1.25倍に加算されます。
つまり、「法定外残業の割増率(1.25倍)+深夜残業の割増率(0.25倍)=1.5倍」となり、通常賃金に割増率1.5倍を掛けた金額が残業代となるのです。
残業を証明するための書類は?
残業代を証明するためには、普段勤怠管理には利用しているタイムカードや業務日報、パソコンのログイン・ログアウトの記録、メールなどで証明することが可能です。
ただし、残業代を支払いたくないがため、実際の労働時間よりも短く申請させる悪質な企業もあるかもしれません。そんな時には、実際の退勤時間を写真で撮っておくなどして、実際に働いていた時間の証拠を残しておくことが大切になります。
また、遅い時間にメールを送るなどあえて働いていた形跡を残すというのも手です。
それでも企業側が残業代支払いに応じない場合
残業代を支払うべき企業に交渉したり内容証明を送ったりしても支払いに応じてくれない時はどうすれば良いのでしょうか。
弁護士に相談
内容証明を送っても残業代の支払いをしてくれないという場合は弁護士に相談してみましょう。自分で交渉を続けていても会社側に適当にあしらわれ続ければ時効となってしまう可能性もあります。
労働問題が得意な弁護士ならばどのように対応すれば良いかという的確なアドバイスをくれますし、スピード解決に繋がるでしょう。
訴訟になる場合にも弁護士を立てる必要が出てきますので、自分での交渉が難しいと感じたらすぐに弁護士に相談したほうが良いでしょう。
労働審判
労働審判とは、平成18年4月から始まった比較的新しい制度です。労働者と事業主との間で起きた労働問題を労働審判官1名と労働審判員2名が審理し、スピーディーで適切な解決を図ることを目的とする裁判所の手続きのことです。
法的効力を持ちながら、訴訟に比べると手続きが簡単で、解決までが早いため年々利用者が増えているそうです。
手続きは、「労働審判手続申立書」と残業の証拠となる「証拠証明書」を裁判所に提出して、最高3回の審判が行われます。話し合いだけで解決できれば調停成立となりますが、労働審判で解決せずに会社から異議申し立てをされる場合は訴訟により解決を目指します。
労働訴訟
労働訴訟は、時間もお金もかかるため、内容証明・労働審判で解決しなかった場合の最終手段となります。訴訟では、労働者側の訴状に対して、会社側は答弁書を提出します。訴訟では労働者側・使用者側がそれぞれの主張を繰り返し行い、最終的に「判決」という形で結果が出ます。
訴訟は解決までに1年以上かかるケースも多く、長期戦を覚悟する必要があります。そのため、残業代の金額が少ない場合には時間的にも弁護士を雇う費用的にも見合わない場合もあるかもしれません。
残業代請求の時効は2年【2020年時点では】
残業代の請求の時効は、残業が発生した月から2年間です。ただし、上記でも説明しましたが、内容証明送付した場合には6ヶ月時効を延長することができます。また、労働審判や労働訴訟を起こせば時効を中断することができます。
もし、時効の期限がギリギリになってしまった場合は、内容証明を送っても6ヶ月しか延長できません。このような場合にはすぐに労働審判をしたほうが良いといえます。
労働者も知っておくべきダブルワークを許可する企業側の対応
上記の通り、ダブルワークにより残業代が発生するのにも関わらず、残業代を支払ってもらえない場合は残業代を請求する権利があります。しかし、ダブルワークを許可する企業が「そんなこと知りませんでした」とならないためにも、従業員側から確認することも大切といえそうです。
後から採用する企業は先に働いている会社の労働時間を確認
副業として後から採用する企業は、先に働いている労働時間を必ず確認する必要があります。たとえば、本業として働いている会社で1日8時間働いていて、副業で1日2時間働くのであれば、副業の労働時間は全て残業代を上乗せた割増賃金となります。
雇われる労働者としても、労働時間を超える場合にも残業代を支払ってくれるのかを面接時に確認するべきといえそうです。
本業の会社は副業を許可する場合は残業をさせないこと
本業の会社で副業を許可する場合は、残業を極力させないことで残業代の支払いを避けることができます。残業させると所定勤務時間内であっても副業との合算で週8時間となれば残業代を支払わなければケースもあるからです。
たとえば、本業で1日5時間働き副業で3時間働く場合で、本業で1時間残業となればそこに割増賃金を支払う必要が出てきます。
もし、副業させていなければ法定労働時間内で通常の給料になるため、企業としては副業させるかを慎重に検討したほうが良いのです。
まとめ
副業でダブルワークをする人は今後ますます増えそうですが、法定労働時間を合算で超える場合は残業代が発生します。本業と副業のどちら残業代を支払うべきかは、働き方により異なります。
2社の所定労働時間を通算すると、法定労働時間を超えてしまう場合は後から働き始めた企業が残業代を支払う必要があります。2社の所定労働時間を通算しても法定労働時間を超えない場合は、実際に残業が発生した企業が残業代を支払わなくてはいけません。
残業代を支払ってもらえない場合には、まず内容証明を送りましょう。それでも応じてもらえないときには弁護士に相談して労働審判や労働訴訟などの方法を取ることもできます。
残業代請求の時効は2年なので、早めにアクションを起こすことが大切といえるでしょう。