パート・アルバイトを雇用する経営者の方に向けて、雇用保険への加入条件や、今度対応する必要がある手続きの進め方を詳しくご説明します。
人を雇用する際は、雇用保険だけでなく、社会保険にも加入させなければいけないことがあります。
従業員を採用した際に加入手続きをしなければいけない保険の種類と加入条件は次のとおりです。
加入義務がある保険の種類 (リンク先にて詳細説明) | パート・アルバイトの加入条件 |
詳細:社会保険 | 1.所定労働時間または所定労働日数が正社員の3/4以上のパート・アルバイトは加入対象 2.所定労働時間または所定労働日数が正社員の3/4未満の場合 法人内の被保険者101人以上(令和6年10月以降は51人以上) かつ 以下3点に該当すれば加入義務あり ・週の所定労働時間が20時間以上あること ・賃金の月額が8.8万円以上であること ・学生でないこと |
雇用保険 (このページで解説) | ・1週間の所定労働時間が20時間以上であること ・31日以上の雇用見込みがあること |
詳細:労災保険 | 全ての被雇用者が加入対象 |
この記事では、上記の中から雇用保険への加入条件や手続きの進め方についてご説明します。アルバイトを雇用する方や、雇用保険への加入手続きがまだお済みでない方はぜひご参考ください。
- 雇用保険の手続きを進めるのが面倒な方へ
- アルバイトを雇用する際は、やらなければいけないことがたくさんあります。
特に初の雇用であれば、勤怠管理や給与計算の準備などもしなければいけません。
初めて人を雇う際にやるべきことについては以下の記事で解説しているので、まだ対応していないことがないかご確認いただけます。
加入手続き以外にも、雇用保険や社会保険の手続きをしなければいけない状況が今後度々発生します。
以下記事などを参考に、忘れずにご対応ください。
雇用保険や社会保険の手続きが面倒な場合は、社労士に外注をすることで手続き忘れやミスを未然に防げます。
「雇用保険のような手続きを進めるのが億劫で対応を後回しにしてしまった」
「雇用保険や社会保険関係の手続きを忘れずに対応するのは難しそう」
という方は、社労士への外注もご検討ください。
パート・アルバイトの雇用保険の加入条件
以下2点の両方に該当する労働者は雇用保険の加入対象です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること(1月換算で80時間程度)
- 31日以上の雇用見込みがあること
1週間の所定労働時間が20時間以上であること(1月換算で80時間程度)
所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書などで定められた労働時間のことです。
週ごとに労働時間が変動する契約をしている場合は、1週間あたりの平均の労働時間を所定労働時間とします。
1月や1年単位で所定労働時間を定めている場合は、1週間あたりの労働時間に換算して20時間以上かどうかを確認しましょう。
31日以上の雇用見込みがあること
雇用契約の期間の定めがない場合や、1ヶ月契約をしたが更新をして実質31日以上働くような場合は雇用保険の加入対象です。
31日未満の労働日数で契約をして、更新をしない旨が明示されているような場合は雇用保険の加入義務はありません。
雇用保険への加入義務がないパート・アルバイトとは
以下に該当する方は、雇用保険の被保険者にはなりません。
- 1週間の所定労働時間が 20 時間未満
- 31 日以上雇用される見込みがない
- 季節的に雇用されている
- 一定の条件に当てはまる学校の学生・生徒
- 一定の条件に当てはまる船員
- 一定の条件に当てはまる公務員
1週間の所定労働時間が 20 時間未満
31 日以上雇用される見込みがない
季節的に雇用されている
季節的に雇用されている方のうち、以下のいずれかに該当する方は雇用保険の加入対象外です。
- 4か月以内の期間を定めて雇用される者
- 1週間の所定労働時間が 30 時間未満の者
一定の条件に当てはまる学校の学生・生徒
通信教育の学生、大学の夜間学部、高校の夜間または定時制の学生以外は雇用保険の加入対象にはなりません。
ただし、昼間学生でも、以下に該当する方は雇用保険の加入対象です。
- 卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一事業所に勤務する予定の方(卒業見込証明書が必要)
- 休学中の方
- 事業主の承認を受け雇用関係を存続したまま大学院等に在学する方
- 一定の出席日数を課程終了の要件としない学校に在学する者であって、当該事業において、同種の業務に従事する他の労働者と同様に勤務し得ると認められる方
一定の条件に当てはまる船員
次に該当する船員は雇用保険の加入対象です。
- 船舶所有者に雇用されている方
- 船舶で働く雇用契約(乗船契約)をしている方
- 船内で使用されるわけではない雇用契約をしている予備船員の方
一方、特定漁船以外の漁船に乗り込む方で、1年を通じて雇用される予定がない方は雇用保険の対象外です。
一定の条件に当てはまる公務員
公務員の方で、離職時に受け取る給与が失業給付の内容を超える場合は雇用保険の加入対象にはなりません。
パート・アルバイト雇用保険料の金額は誰がいくら払うことになる?
アルバイトを雇用すると、雇用保険料はいくらかかるのでしょうか。以下、雇用保険料の計算方法や支払い方法について、以下4点をご説明します。
- 雇用保険料は、労働者と事業主が負担する
- パート・アルバイトの雇用保険料は、給与に雇用保険料率をかけて計算する
- 月収別|雇用保険料計算例
- 雇用保険料の申告と納付は同時に行う
雇用保険料は、労働者と事業主が負担する
雇用保険料は、労働者と事業主が支払います。事業主の方が多めに負担することになっています。具体的な保険料の金額と計算方法は次のとおりです。
パート・アルバイトの雇用保険料は、給与に雇用保険料率をかけて計算する
給与(総支給額)に以下の保険料率をかけて保険料を計算します。
【令和5年度雇用保険料率】
業種 | 労働者負担 | 事業主負担 | 雇用保険料率 |
一般の事業 | 6/1000 | 9.5/1000 | 15.5/1000 |
農林水産・清酒製造業 | 7/1000 | 10.5/1000 | 17.5/1000 |
建設業 | 7/1000 | 11.5/1000 | 18.5/1000 |
月収別|雇用保険料計算例(一般の事業の保険料率で計算)
月収 | 労働者負担 | 事業主負担 | 雇用保険料 |
10万円 | 600円 | 950円 | 1550円 |
20万円 | 1200円 | 1900円 | 3100円 |
雇用保険料の申告と納付は同時に行う
雇用保険料の申告と納付は、年に一度同時に行います(年度更新)。
このとき、前年度の確定保険料の納付と、当年度の概算保険料の申告を同時に行います。
手続きの期限は毎年6月1日~7月10日あたりで、5月の下旬以降に労働局から書類が届きます。書類の提出先は、管轄の労働基準監督署または労働局です。
パート・アルバイトを雇用すると対応が必要になる雇用保険手続き
アルバイトを雇用する際は、状況に応じて以下のような雇用保険手続きが必要になります。
- はじめて雇用する際の手続き
- パート・アルバイト雇用保険に加入させる手続き
- パート・アルバイト退職時の雇用保険手続き
- パート・アルバイトから正社員に転換した際の雇用保険手続き
はじめて雇用する際の手続き
人を1人でも雇用する場合は、労働保険(雇用保険・労災保険)の適用事業所になるための手続きが必要です。以下2点の書類を提出しましょう。
- 労働保険保険関係成立届
- 雇用保険適用事業所設置届
はじめて人を雇用する際の書類提出の流れは大まかに次のとおりです。
- 労働保険保険関係成立届を労働基準監督署またはハローワークに提出
- 受理印を押された労働保険保険関係成立届事業主控を添えて、雇用保険適用事業所設置届(後述)と雇用保険被保険者資格取得届(後述)をハローワークに提出
労働保険保険関係成立届
業種別に書類の提出先が異なります。まずご自身の会社が以下のどちらに該当するかご確認ください。
説明 | 具体例 | |
一元適用事業 | 労災保険・雇用保険の申請と納付を一元的に扱う事業 | 二元適用事業(下)以外 |
二元適用事業 | 労災保険・雇用保険の申請と納付を別々に扱う事業 | ①都道府県及び市区町村が行う事業 ②①に準ずるものの事業 ③港湾労働法の適用される港湾の運送事業 ④農林・水産の事業 ⑤建設の事業 |
一元適用事業の場合
手続き名 | 保険関係成立届 |
入手方法・入手先 | 労働基準監督署もしくはハローワークの窓口でもらうか郵送してもらう |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
添付書類・必要書類 | 1.事業所が実在することを証明するための書類 (法人は法人登記簿謄本のコピー、個人事業主は代表者の住民票) 2.労働保険概算保険料申告書 |
提出先 | 所轄の労働基準監督署 |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 保険関係が成立した日から10日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
二元適用事業の場合
手続き名 | 保険関係成立届 |
入手方法・入手先 | 労働基準監督署もしくはハローワークの窓口でもらうか郵送してもらう |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
添付書類・必要書類 | 1.事業所が実在することを証明するための書類 (法人は法人登記簿謄本のコピー、個人事業主は代表者の住民票) 2.労働保険概算保険料申告書 |
提出先 | 以下にそれぞれ提出 所轄の労働基準監督署(労災保険に関する手続き) 管轄の公共職業安定所(雇用保険に関する手続き) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 保険関係が成立した日から10日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
雇用保険適用事業所設置届
手続き名 | 雇用保険適用事務所設置届 |
入手方法・入手先 | 雇用保険適用事務所設置届|内閣府 |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
添付書類・必要書類 | 1.雇用保険被保険者資格取得届 2.労働保険関係成立届の事業主控え(労働基準監督署が受理したもの) 3.労働者の雇用・賃金の支払状況等を証明できる書類 (労働者名簿、賃金台帳、出勤簿又はタイムカード、雇用契約書 のいずれか) 4.事業の実態がわかる書類 (登記事項証明書、事業許可証、工事契約書、不動産契約書、源泉徴収簿、他の社会保険の適用関係書類) |
提出先 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 加入対象の従業員を雇用してから10日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
パート・アルバイト雇用保険に加入させる手続き
手続き名 | 雇用保険被保険者資格取得届 |
入手方法・入手先 | ハローワーク インターネットサービスより印刷 |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
提出先 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
添付書類 | 原則不要 期限を過ぎた場合は、雇用したことを証明する以下のいずれかの書類 ・賃金台帳 ・労働者名簿 ・出勤簿 など |
提出期限 | 被保険者にする従業員を雇用した月の翌月10日まで |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明(2ページ目) |
パート・アルバイト退職時の雇用保険手続き
アルバイトが退職する際は、以下の手続きをしましょう。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者離職証明書(離職票)
従業員が退職する際の社会保険手続きについては以下の記事でも詳しくご説明しています。
雇用保険被保険者資格喪失届
手続き名 | 雇用保険被保険者資格喪失届 |
入手方法・入手先 | 雇用保険被保険者資格喪失届 |
記入例 | 雇用保険被保険者資格喪失届 |
添付書類・必要書類 | 【必ず必要】 資格喪失届(マイナンバーの記載が必要) 【離職票を交付希望の場合に必要 ・離職証明書 (3枚複写 ) ・支給の内訳と交通費が分かる賃金台帳又は給与明細書 (記載した期間すべて) ・出勤簿又はタイムカード (記載した期間すべて) ・離職理由の確認できる書類のコピー |
提出先 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 退職日の翌々日から10日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | ネット上に公式の情報が少ないため、ハローワークに問い合わせるのが無難 |
雇用保険被保険者離職証明書(離職票)
退職予定の方が失業給付を受給する手続きをする際に必要になる書類です。
手続き名 | 雇用保険被保険者離職証明書 |
入手方法・入手先 | ハローワークの窓口でもらう(郵送で取り寄せる)、e-govで検索 |
記入例 | 雇用保険被保険者離職証明書 |
添付書類・必要書類 | 出勤簿 退職辞令発令書類 労働者名簿 賃金台帳 離職証明書(離職票が不要のときは提出しなくてよい) 離職理由が確認できる書類等 |
提出先 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
パート・アルバイトから正社員に転換した際の雇用保険手続き
アルバイトをしているときに既に雇用保険に加入していた場合は手続きは不要です。
雇用保険に加入していなかった場合は、雇用保険被保険者資格取得届を提出しましょう。
こんな時はどうする?パート・アルバイトの雇用保険加入
雇用保険に加入させるべきかどうか判断がつきにくいケースについて、どのように対応するべきなのかご案内します。
- 扶養内のパート・アルバイトも雇用保険に加入させる必要があるか?
- パート・アルバイトを掛け持ちしている方の雇用保険はどうする?
- 補足:加入条件を満たすパート・アルバイトが雇用保険未加入のままだとどうなる?
扶養内のパート・アルバイトも雇用保険に加入させる必要があるか?
扶養に入っているかどうかに関係なく、加入要件を満たせば雇用保険に加入させる必要があります。
一定の年収を超えると社会保険料や所得税が発生するので、扶養内で働く方を雇用する場合は年収の調整を希望されることがあります。
年収と社会保険や税金との関連を整理すると…
項目 | 説明 |
社会保険 (健康保険・厚生年金) | 年収130万円を超えると社会保険料を払う必要がある |
所得税 | 年収103万円を超えると所得税が発生 |
雇用保険 | 加入条件に年収や収入に関する項目はない |
パート・アルバイトを掛け持ちしている方の雇用保険はどうする?
2箇所以上の職場で雇用保険の加入条件を満たしている場合
複数の職場で雇用保険の加入条件を満たしている場合は、主な収入源になっている会社の方で雇用保険に加入することになります。複数の職場で二重加入することはできません。
どの職場でも雇用保険の加入条件を満たしていない場合
どの職場でも週の所定労働時間が20時間未満の場合は、雇用保険の加入要件を満たさないので雇用保険への加入は不要です。所定労働時間は職場ごとにカウントします。
加入条件を満たすパート・アルバイトが雇用保険未加入のままだとどうなる?
雇用保険の加入条件を満たす従業員を雇用保険に加入させないと、労働局から是正勧告を受ける恐れがあります。
是正勧告を無視すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される恐れがあります。
さらに、延滞金の納付や追徴金の支払いを求められることもあります。
まとめ
この記事では、以下の内容をご説明しました。
- 雇用保険への加入が必要なアルバイトの条件(週20時間以上の労働と31日以上の雇用見込み)雇用保険料の計算方法や支払い方法
- 雇用保険加入手続きの方法
- 加入手続き以外の、今後発生しうる雇用保険手続き
- 雇用保険加入が義務であるにもかかわらず未加入の場合のリスク