雇用保険への加入を忘れていた場合、2年以上遡って加入できます。
遡って加入をする際は、通常の手続きに加えて遅延理由書の提出が必要だったり、場合によっては保険料の10%にあたる追徴金の支払いを命じられたりする恐れがあります。
労働保険料を計算しなおして訂正申告をする作業も発生するので、わからない点や困ったことがある場合はハローワークや社労士に相談をしながら手続きを進めるのが無難です。
以下、経営者や人事労務担当者の方に向けて、従業員を雇用保険に加入させるのを忘れていた場合の手続きの進め方や、事前に知っておいた方がいいポイントをご説明します。
【前提知識】雇用保険に遡って加入する前に押さえておきたい4つのポイント
加入手続きを進める前に前提として知っておいた方がいいポイントを4点ご説明します。既にご存じの箇所は飛ばしていただければ幸いです。
- 雇用保険に遡って加入する際の2つのケース
- 遡って加入しなければいけないのはどんな企業?雇用保険の加入義務おさらい
- 雇用保険に遡って加入しないとどんな不利益があるのか?
- 雇用保険に遡って加入できる期間はいつまで?
雇用保険に遡って加入する際の2つのケース
雇用保険に遡って加入することを考えるときには、次の2つのケースがあり得ます。
- 会社が雇用保険に加入していないケース
- 従業員を雇用保険に加入させていないケース
どちらに該当するのかによって必要な手続きが異なります。雇用保険の加入について調べる際は、前提として上記のパターンがあることをご認識ください。
遡って加入しなければいけないのはどんな企業?雇用保険の加入義務おさらい
そもそも雇用保険の加入義務がなければ、加入手続きを進める必要がありません。
雇用保険への加入義務がある企業・従業員は次のとおりです。
雇用保険への加入義務がある企業
労働者を1人でも雇用していれば、雇用保険に加入する義務があります。
『雇用保険遡って加入する際の手続き・必要書類』より手続きを進めてください。
保険関係成立届を提出したうえで、従業員を雇用保険の被保険者にする手続きを進めましょう。
雇用保険への加入義務がある従業員
上記の雇用保険への加入義務がある企業(適用事業所)に雇用されている労働者のうち、以下の両方に該当する労働者は全員雇用保険の被保険者になります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
上記に該当する方を雇用している場合は、『従業員を雇用保険に加入させていない場合の手続き』より、加入手続きを進めてください。
雇用保険に遡って加入しないとどんな不利益があるのか?
雇用保険への加入義務があるのに加入しないままでいると、以下のような不利益を被る恐れがあります。
- 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される恐れがある
- 保険料の10%にあたる追徴金の支払いが命じられることがある
- 保険料の修正申告が必要になる
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される恐れがある
雇用保険に加入しなくても、直ちに上記の罰則を課せられるわけではありません。
雇用保険への未加入が発覚すると、労働局から是正勧告をされることがあります。
これを無視して労働者を雇用保険に加入させなかった場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される恐れがある(雇用保険法83条の1)恐れがあります。
保険料の10%にあたる追徴金の支払いが命じられることがある
行政庁より指導を受けても成立手続きをしない場合、最大過去2年まで遡って労働保険料(雇用保険料と労災保険料)を徴収されます。さらに、10%の追徴金が加算されます。
さらに、労災保険の給付額の40%または100%を請求されます。労災保険の給付は、労災被害にあった従業員に支払われるお金です。第1級の障害を負った場合の支給金額は342万円です。本来は企業が支払うお金ではありませんが、労災保険への加入をしていないと企業が支払わなければいけなくなる可能性があります。
という場合は、社労士に雇用保険への加入手続きを外注することもできます。雇用関係の業務で、雇用保険以外にも対応を忘れている手続きがあれば、この機会に全て任せてしまうのも精神衛生上いいかもしれません。
保険料の訂正申告が必要になる
本来払うべきだった保険料と、実際に支払った保険料の間に乖離が発生していて、年度を跨いでいる場合は労働保険料を計算し直して、訂正申告する必要があります。
雇用保険に遡って加入できる期間はいつまで?
会社が雇用保険に加入していないケース
保険関係成立届を成立しておらず、会社が雇用保険の適用を受けていない場合は、保険料の徴収時効(2年)を超えていても納付が可能です。
従業員を雇用保険に加入させていないケース
給与明細で雇用保険料が天引きされていることが確認できれば、2年以上遡及できます。
雇用保険遡って加入する際の手続き・必要書類
そもそも会社が雇用保険に加入していない場合は1、2の手続きを、会社が雇用保険に加入している場合は2の手続きをしましょう。
- 会社が雇用保険に加入していない場合の手続き
- 従業員を雇用保険に加入させていない場合の手続き
会社が雇用保険に加入していない場合の手続き
初めて労働保険(雇用保険と労災保険)に加入する際は、労働保険保険関係成立届を企業がある地域を管轄する労働基準監督署に提出します。
受領印が押された労働保険保険関係成立届事業主控及び確認書類等に、雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届を添付して企業がある地域を管轄するハローワークに提出しましょう。
農林水産、建設、港湾運送業の場合は書類の提出先が異なります。
以下の記事の『雇用保険の適用を受けるための手続き(初回のみ)』で、詳細な添付書類や書類の入手方法などについて詳しくご説明しています。手続きを進める予定がある方はこちらをご参考ください。
従業員を雇用保険に加入させていない場合の手続き
従業員を雇用保険の被保険者にするために、雇用保険被保険者資格取得届を提出します。
追加で添付書類の指示があるかもしれないので、管轄のハローワークに相談をしたうえで手続きを進めるのが無難です。
手続き名 | 雇用保険被保険者資格取得届 |
入手方法・入手先 | ハローワーク インターネットサービスより印刷 |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
提出先 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
提出方法 | 窓口持参 (手続きが遅れている場合は電子申請不可) |
添付書類 | 提出が遅れた場合のみ以下の書類が必要です。 ・遅延理由書(サンプル) 【遅延理由書に以下を添付】 ・直近2年間の全労働者の労働者名簿、賃金台帳、出勤簿 ・雇用契約書または労働条件通知書 ・その他、安定所が指示した書類(直近2年間の源泉所得税の領収済通知書など) |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明(2ページ目) |
雇用保険に遡って加入する際の保険料はどうなる?
雇用保険に遡って加入する場合の保険料はどうなるのでしょうか?押さえておきたいポイントを4つご案内します。
- 年度を跨ぐ場合は労働保険料の修正申告が必要
- 労働保険料の追徴金・労災保険の給付額の支払いを命じられることも
- 雇用保険料の天引きなしの場合の遡及加入はどうなる?
- 雇用保険に遡って加入する場合の会社負担は?
年度を跨ぐ場合は労働保険料の訂正申告が必要
雇用保険に加入していなかった場合は労働保険料の金額が変わるので、訂正申告が必要です。労働保険料等の申告内容について訂正が必要なときより労働保険訂正申告理由書(Word)をダウンロードし、提出してください。
主な添付書類は…
- 労働保険料申告書
- 確定保険料賃金集計表
- 一括有期事業総括表・報告書
上記リンク先でダウンロードできる労働保険訂正申告理由書(Word)に詳細な添付書類が書かれているので、詳しく知りたいタイミングでご確認いただければと思います。
労働保険料の追徴金・労災保険の給付額の支払いを命じられることも
上でご説明したとおり、是正勧告に応じない場合は、労働保険料の10%の追徴金や労災保険の給付額の40%または100%の支払いを命じられることがあります。
雇用保険料の天引きなしの場合の遡及加入はどうなる?
給与明細などで雇用保険料を天引きしていることを確認できない場合は、2年までしか遡及して加入できません。
厚生労働省のページには、次のような記載があります。
雇用保険の加入手続が漏れていた場合であっても、雇用保険料が給与から天引きされていたことが書面により確認できる場合には、2年を超えた期間についても、雇用保険に遡って加入していただくことができるようになります。
雇用保険に遡って加入する場合の会社負担は?
遡って加入する場合も、雇用保険料の負担割合は通常と同じです。令和6年の場合で、会社が約6割、従業員が約4割を負担します。詳細な負担割合については令和6年度の雇用保険料率についてをご参考ください。
労災保険料は会社が全額負担します。
雇用保険の手続き忘れが心配な方が社労士に手続きを外注する3つのメリット
雇用保険に遡って加入する場合は保険料の再計算や追加の添付書類が必要になるので、手続きを進めるのが大変であれば社労士に外注してしまうのもいいかもしれません。
以下、社労士に外注するメリットを3点ご説明します。
- 手続き忘れによる金銭的損失を回避できる
- 手続き負担の軽減とミスの防止ができる
- 意図しない法令違反をする心配から解放される
手続き忘れによる金銭的損失を回避できる
法律上やらなければいけない手続きを忘れてしまうと、雇用保険の場合であれば2年以上遡って保険料を支払わなければいけない上に、追徴金や罰金、労災保険の給付金の支払いを命じられる恐れがあります。
もっとも、上記のような請求をされるのは是正勧告に従わないような、悪質性が高いような場合です。
とはいえ、まとまった金額のお金の支払いをある日突然命じられると資金繰りが苦しくなるので、可能な限り手続き漏れは防ぎたいところです。
社労士に手続きを任せることで、上記のような金銭的損失を被るリスクを下げられます。
手続き負担の軽減とミスの防止ができる
人を雇用すると、度々雇用保険関連の手続きをしなければいけません。本業に集中しながら雇用保険を含む社会保険手続きを全て忘れずに対応するのは、不可能ではないにせよ、確認や対応に少ないリソースをさくことになります。
社会保険関係の手続きの数は多く、以下の記事で紹介しているだけでも約20の手続きがあります。
社労士に外注をすることでこれらの手続きを忘れずにミスなく対応できるので、忙しい経営者の負担を大きく減らせるはずです。
意図しない法令違反をする心配から解放される
社労士は人を雇用する際に守る必要がある法律を詳しく知っています。今回の記事では雇用保険の加入忘れについて触れましたが、例えば残業代未払いのような、従業員とのトラブルを防ぐための体制を構築するのが得意な職業です。
人を雇用する際に、法律や制度を全て網羅したうえで対応するのはなかなか至難の業です。雇用や労働に関して気になることがある方は、相談先として社労士を検討されるのもいいかもしれません。
まとめ
この記事では、主に以下のような点をご説明しました。
- 遡及加入が必要なケース:企業が雇用保険に未加入の場合と、従業員を加入させていない場合。
- 加入義務:1人以上の労働者を雇用する全ての企業と、週20時間以上勤務し31日以上の雇用が見込まれる従業員。
- 遡及加入しない場合の不利益:罰金や懲役、追徴金、労災保険の給付金負担の可能性。
- 遡及加入できる期間:企業が未加入の場合は時効超えても可能、従業員が未加入の場合は給与明細で保険料が天引きされていれば2年以上可能。
- 手続き・必要書類:保険関係成立届等の提出、従業員の被保険者資格取得届の提出
雇用保険に遡って加入する場合、労働保険料の再計算や従業員へのフォロー、これまでの保険料の支払いをどうするかなど、やることや検討することが多いです。手続きを進めるにあたって不安を感じる方は社労士への相談もお考えください。