労務デューデリジェンス

労務デューデリジェンス(労務DD)とは?M&AやIPOにおいていつ・どんな場面で必要なのか解説

デューデリジェンスという言葉は、「Due(当然の、正当な)+Diligence(精励、努力)」から形成されています。デューデリジェンスというとM&A(企業買収や合併)やIPO(株式上場)を行う際に、財務・法務など問題点を洗い出すために行われるイメージがあるかもしれませんが、近年では「労務デューデリジェンス」も重要視されています。

なぜ労務デューデリジェンスが必要なのでしょうか?

労務デューデリジェンスの項目や手順について解説します。

 

実績のある社労士を無料でご紹介

労災申請、給与計算、社会保険の手続き、助成金の申請などは、社会保険労務士におまかせしましょう。社会保険労務士相談ドットコムでは、あなたのお悩みの合わせて最大5人のプロから、ご提案とお見積もりが届きます。

事業所 イメージ画像
社労士の無料マッチングを依頼する

M&Aにおける労務デューデリジェンスの必要性

M&Aでは、買い手企業が売り手企業の持つリスクを確認する必要があります。そもそもM&Aは企業価値を上げるために行うものです。そのため、買収することにより企業価値が下がる可能性のあるリスクがどのくらい潜んでいるかという調査を買収前に行うケースがほとんどです。

このようなリスク調査を「デューデリジェンス」といい、法務・財務などとならび労務面の人事制度・就業規則の内容や運用実態を探る労務デューデリジェンスも行う必要があります。

例えば、残業代の未払いなどは表面化されていない債務です。それを精査せずに買収したら、後々買い手企業が残業代を支払う必要が出てきてしまいます。残業代を支払うだけではなく、残業代を支払わないブラック企業としてうわさが立てば、企業価値を落とすリスクがあるので、買収前にきちんと調査する必要があるのです。

また、残業代の未払いは労使トラブルに発展する可能性もあります。従業員から訴訟を起こされることになれば企業の財務内容に影響を及ぼすだけではなく、対応する多大な会社の人的対応コストも発生します。

他にも、従業員を長時間労働させた結果、実績を出せていたケースも注意です。従業員の労働時間を減らせば実績が出なくなったり、その分雇用したら人件費がかかり利益率が悪くなったりするケースも考えられます。

このようなリスクを避けるために、労務面のトラブルやリスクがないかを調査する必要がありますし、リスクがある場合は対処が許容範囲内か、リスクも含めて売り手企業の価格は妥当かを確認する必要があるのです。

IPOにおける労務デューデリジェンスの必要性

IPO時には、従業員の状況について有価証券報告書(Ⅱの部)の作成が必要です。以下が具体的な内容になります。

  1. 企業グループの人事政策
  2. 最近3年間における企業集団の従業員の異動の状況
  3. 出向者の状況
  4. 今後2年間における人員計画
  5. 時間外労働及び休日労働の管理方法並びに労使協定の締結状況
  6. 時間外労働の状況
  7. 最近3 年間及び申請事業年度における労働基準監督署からの調査の状況

そのため、IPO時にも労務デューデリジェンスを行い、上場企業の基準に何が届かないのかを明確にする必要があります。上場企業の基準は厳しく、法令を違反している場合には上場することができません。これは従業員を守るのはもちろんですが、コーポレート・ガバナンスとして投資家の資産を守るためです。経営状況が悪い企業に投資することで、投資家が大きな損害を被る可能性があります。

例えば、労務状況が悪く自殺者が出るような企業に対しては世間の目が厳しくなります。その結果、消費者や取引先から不買運動が起これば業績は悪化、株価は暴落する可能性があるでしょう。株価が暴落して投資家が損をしないように、法令を遵守している企業しか上場することはできません。

そのため、IPO前には労務デューデリジェンスを行うことで労務問題を洗い出し、上場基準に見合う労働環境に改善する必要があります。

労務デューデリジェンスの重要性が高まる理由

労務デューデリジェンスの重要性が高まっている理由としては、労働に関する社会的な目が厳しくなっていることがあります。特に残業代問題やハラスメント問題に世間は敏感です。ブラック企業だとうわさが広まれば企業の信用は失墜し、消費者や取引先が製品・サービスを購入してくれなくなる可能性があります。

労務問題は労働基準監督署や週刊誌やテレビ局などのメディアなどに内部告発されれば一気に広まってしまうのです。最近ではSNSでの拡散も早いので、特に気を付ける必要があります。世間に悪印象が広まり業績が悪くなれば、株価は暴落し、経営が立ち行かなくなるでしょう。

最悪の場合倒産に至るケースもあります。このように、労務環境が悪いと企業イメージにも影響するので、労務デューデリジェンスで問題を把握し、問題解決の糸口を早急に見つける必要があるのです。

労務デューデリジェンスが必要になるタイミング

それでは、労務デューデリジェンスがどのタイミングで必要になるかについて説明します。

M&Aの場合

M&Aは、一般的に以下のような流れで進みます。

  • 売り手企業によるM&Aを実施する戦略的意思決定
  • M&Aアドバイザー、M&A仲介業者などとファイナンシャル・アドバイザリー契約を締結
  • 「ノンネームシート」などの事前開示情報の作成
  • 買い手候補企業探し
  • 売り手側・買い手候補企業双方トップによる面談・交渉
  • 基本合意契約の締結
  • デューデリジェンスの実施
  • 最終譲渡契約締結と支払い
  • 事業統合(PMI)

M&Aにおいてデューデリジェンスは必須ではありませんが、購入後に問題発覚して大きな損害を被ることがないように必ず行ったほうが良いといえるでしょう。上述の通り、M&Aにおけるデューデリジェンスは基本合意後に行い、デューデリジェンスの結果を確認して実際に契約を結ぶかを決定します。

労務デューデリジェンスで問題が発覚すれば、最初の見積金額より企業価値が安く交渉することもできますが、リスクを考えて買収を断念することもできます。M&Aは企業価値を上げる手段なので、デューデリジェンスの結果から買収の妥当性を慎重に考えるべきです。

IPOの場合

IPOをする前にも労務デューデリジェンスが必要です。IPO時には主幹事証券会社や証券取引所が「上場企業としての労務体制が整っているか」を調査します。近年、働き方改革が進んでおり、上場申請時における人事労務に関するコンプライアンス審査が厳しくなっています。

特に問題になりやすいのは未払い残業・過重労働・ハラスメント問題です。未払い残業に関する法令違反は、消滅時効が3年ですので、未払い問題が解決できなければそれだけ上場が遅れてしまいます。

非上場企業であれば労働基準監督署の是正勧告や、労働者側弁護士からの未払残業代の請求がなければ対処する必要もない問題ですが、IPOをするのであればしっかり対処する必要があります。

すでに退職した人にも未払い残業代を支払う必要があるので、対象者が多ければ処理に時間がかかるでしょう。従業員数によっては億単位の支払いが必要となりIPOを断念せざるを得ないケースもあります。そのため、IPOをしたいと決めたらなるべく早く労務デューデリジェンスを行い、問題を可視化する必要があります。

IPOを行う場合、まずはショートレビュー(監査契約前のチェック)を行い、そのあとにデューデリジェンスをします。直前々期に入る前に、全ての規程・運用をチェックして適法化しなければいけないので、労務デューデリジェンス及び問題解決の対応が遅れてIPOも遅れてしまうという事態は避けましょう。

労務デューデリジェンスの主な項目

労務デューデリジェンスで調査する主な項目について説明します。

会社風土

会社風土としては、経営理念、社風、組織体制、権限などを調査します。

雇用

雇用については、労働契約の整備できているか、雇用形態(正社員、契約社員、パート・アルバイト等)の基準を調査します。また、最低賃金が守られているかも調査内容なので、労働者を安い賃金で雇用している場合は注意が必要です。

就労規則

雇用形態ごとの規則の整備状況を確認します。また、労働者代表の選出方法に経営陣の関与がないかなども注意が必要なポイントです。

【関連記事】就業規則の見直しは重要!見直しのタイミングやポイントを徹底解説

労使協定

36協定(残業時間のルール)が機能しているかなどを調査します。

労働保険・社会保険

労働保険、社会保険がきちんと適用されているか、正しい方法で計算されているかを調査します。

労働時間・休暇制度

労働時間や休暇制度は最もみられるポイントです。どのような労動時間制度の実施しているのか(変形労働時間制や裁量労働時間制など)、時間外労働の実態、振替休日や代休の実施状況などを調査されます。

特に残業時間に関してはタイムカードの数字を見るだけではなく、サービス残業を強制されていないかという実態面でも確認されます。また、産休、育児・介護休業が制度として整備されているかだけではなく、実際に復帰した人が働ける環境があるかも確認対象です。

人事制度

人事制度の内容と実施状況、評価基準、人事考課の実施状況など調査します。IPOにおいて、従業員の成長や定着は不可欠な評価基準です。従業員が成長・定着しなければ経営は安定せず、成長にも期待できないからです。

そのため、従業員がモチベーションを持ち続けることができる人事体制になっているか評価されます。

M&Aの場合、売り手企業の従業員にとって、人事制度が大きく変わればモチベーションの低下につながる可能性もあるでしょう。統合後に売り手企業の人材流出があれば、企業価値を落とすことになりえます。売り手企業の現状の制度を買い手側の制度に切り替えることが無理ないレベルなのかも確認しておいたほうが良いです。

賃金制度・退職金制度

賃金水準(最低賃金、同業種同職種などの賃金水準との妥当性など)の確認、退職金制度の実施状況の調査が行われます。また、M&Aでは買収後に2社の賃金水準を合わせる必要があります。例えば、売り手企業の賃金が低い場合、売り手企業の賃金水準を買い手企業の水準に上げたインパクトなども図る必要があります。

ハラスメント

企業ではパワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラなど様々なハラスメント問題が発生する恐れがあります。このようなハラスメント行為がないか、ハラスメント行為が発生した場合の対象方法、ハラスメント防止のための教育などがチェックされます。

解雇・懲戒

解雇・懲戒の実施状況についても調査されます。

安全衛生管理

企業の規模に合わせた安全衛生管理の実施が必要です。正しい安全衛生管理ができているかも調査対象です。

労務デューデリジェンスの進行方法

労務デューデリジェンスの進行方法について説明します。

リクエストする資料・データリストを提出

労務デューデリジェンスの実施が決まったら、対象企業はリクエストされた資料やデータリストを集めて提出します。具体的には法定帳簿、法定書類、就業規則、安衛法関係書類、労使協定・労働契約書等書式などを提出します。

資料・データ等の収集、閲覧、精査

調査機関は、対象企業から提出された資料・データを精査します。例えば就業規則・社内規程・法定帳簿・労働契約書・労務関連資料などの提出が必要です。

ヒアリング

資料やデータだけではわからない点を企業担当者へヒアリングします。また、資料上では正しい内容でも実態は異なる場合もあるかもしれません。例えば、サービス残業がないかなどについてもヒアリングします。

現地調査

現地調査では、実際に企業を訪問して、社外に持ち出せない資料を確認します。通常M&Aは従業員の不安をあおることがないように経営陣と限られた人間のみが情報を知ることになります。現地調査が行われる際は、従業員への配慮が必要です。

問題点・課題点整理

労務デューデリジェンスにて発覚した問題点をまとめてレポートにします。レポートは約1週間で完成することが多いです。

報告会

労務デューデリジェンスの結果を報告されます。IPOの場合は、企業の担当者、主幹事証券会社、ベンチャーキャピタル等の関係者が参加します。

問題解決の実施(IPOの場合)

IPOの労務デューデリジェンスの場合、問題を解決しなければ上場までの時間がかかってしまうので問題発覚したらなるべく早く問題解決に取り組みます。

売り手企業の価値を見て購入するか検討(M&Aの場合)

M&Aの場合、売り手企業に労務問題があれば売り手企業の価格にも影響します。最初の見積金額からリスク分を差し引いた金額になるか、売り手企業が価格を下げられない場合には買い手企業がそれを承知の上購入します。

買い手企業としては問題があっても購入することによるメリットがあるかをよく考える必要があるのです。

労務デューデリジェンスを依頼できる専門家と費用

最後に、労務デューデリジェンスを依頼できる専門家と費用について説明します。

社労士

労務デューデリジェンスは社労士に依頼することができます。社労士は、人事・労務に関する知識が豊富です。人事・労務関係の実態把握は時間がかかるので、普段から業務に慣れている社労士に依頼するのが安心といえるでしょう。

社労士に労務デューデリジェンスを依頼する場合の費用は、IPOは60万〜80万円、M&Aは80万円~120万円程度とされています。しかし、担当領域や業務量により決定するので一概には言えません。

弁護士

労働規則などの法令に詳しい弁護士にも労務デューデリジェンスを依頼することはできます。ただし、普段から労務問題を専門にしている社労士に比べると知識が劣る可能性があります。そのため、労務問題に対応している実務経験がある弁護士を選ぶべきといえそうです。

また、弁護士に依頼する場合、法務デューデリジェンスも一緒に行うことになるでしょう。法務デューデリジェンスの費用を含めば数百万になることが予想されます。

コンサルティング会社

M&Aを専門にしているコンサルティング会社では、法務・財務などのデューデリジェンスも含めて対応してくれます。

各専門家に別々で依頼すると公認会計士・弁護士・社労士とそれぞれとのスケジュール調整ややりとりが必要になりますが、コンサルティング会社に頼むと窓口となる担当者が付き指示してくれるので依頼する側としては手間を省けます。

費用としては企業規模にもよりますが、数十万円~数百万円かかります。安い費用ではないので、実績が豊富な会社や担当者が経験豊富で頼もしい会社などを選ぶべきといえるでしょう。

まとめ

労務デューデリジェンスは主にM&AやIPO時に行われます。

M&Aの時は、買い手企業が売り手企業の持つリスクを知らずに買収し、後から損をしたり企業価値を落としたりすることがないように必要です。IPO時は、上場時に取引所の上場審査に通るために課題を抽出して、上場基準に社内の体制を整えるために行います。どちらも問題になりやすいのは残業代の未払いです。

労務デューデリジェンスは社労士、弁護士、コンサルティング会社などに依頼できます。費用は数十万円〜数百万円で決して安いとはいえません。各専門家のサービス内容や実績を比較し、信頼できる専門家に依頼するようにしましょう。

>あなたにぴったりの社労士をご紹介

あなたにぴったりの社労士をご紹介

労災申請、給与計算、社会保険の手続き、助成金の申請などは、社会保険労務士におまかせしましょう。社会保険労務士相談ドットコムでは、あなたのお悩みの合わせて最大5人のプロから、ご提案とお見積もりが届きます。

CTR IMG