スムーズに会社設立をするには、目的を明らかにしたうえで相談先を選ぶ必要があります。
目的別の相談先は例えば…
- 社労士|社会保険・労働保険加入時の手続き代理
- 司法書士|登記申請代理・定款作成代理
- 行政書士|許認可手続き代理・定款作成代理
- 税理士|税務申告代理・資金調達の相談
- 法務局|登記のやり方を相談できる
- 商工会議所|無料で幅広い相談ができる
- 日本政策金融公庫|融資に関する相談ができる
社労士は、労働にまつわるトラブルを未然に防ぐための対策や業務が得意な職種です。
この記事では、会社を設立する段階で、どのような場合に社労士が必要なのか、どんな業務を依頼できるのかをご説明します。
会社設立前後で社労士が必要な3つのシーン
会社設立前後で社労士に相談・依頼する必要性が高いのは、以下3つのケースです。
- 社会保険に初めて加入するとき(単発依頼で十分)
- 経営者が労災保険に加入するとき(単発依頼で十分)
- 人を雇うとき(顧問契約を検討するのは人を雇用してからでOK)
社会保険に初めて加入するとき
全ての法人と、従業員が5人以上いる個人事業主は全て社会保険への加入が必須です。
社会保険の適用を初めて受ける際の手続きを外注する場合、社労士にしか依頼できません。社会保険の手続き代理は社労士の独占業務だからです。
経営者が労災保険に加入するとき
会社設立直後であれば、経営を軌道に乗せるために、長時間労働をされている方も多いでしょう。
しかし、経営者は他の労働者と同じように労災保険に加入できません。特別加入制度を利用して労災保険に加入する必要があります。
労災に対して健康保険は使えないので、何も手続きをしなければ、無保険状態で労働時間を過ごすことになります。
当サイトにも、「労災で働けなくなり生きるためのお金が必要、私の症状は給付の対象になるか?」というような相談が寄せられることもあります。労災については被害にあってから慌ててもどうしようもないので、今のうちに労災保険に加入しておくのが安心です。
ただ、全ての社労士が労働保険の特別加入を取り扱っているわけではありません。労災保険に特別加入をする際は、労働保険事務組合か、労働保険事務組合と関係がある社労士を探す必要があります。
人を雇うとき
社労士に依頼する必要性が最も高いのは、初めて人を雇用する前後のタイミングです。
この段階で社労士が必要になる理由は以下の3点です。
- 社労士が代理できる業務は、人を雇用した後でないと発生しない業務がほとんどだから
- 初めて人を雇う際は、人を雇うためにやらなければいけないことが多いから
- 全て自分で対応すると、時間がかかる割に売り上げに直結しないばかりか、意図しない法令違反の種を撒くことになるから(就業規則の不備や給与計算のミスなど)
初めて人を雇う際は、最低限以下の対応が必要です。
- 労働条件の明示
- 雇用契約書の用意
- 社会保険への加入
- 労働保険への加入
- 給与計算の用意
- 就業規則の作成(従業員が10人を超えると必須)
- 障害者を一定割合雇用(従業員が43.5人を超えると必須)
- 税金の手続き
そもそも人を雇うのは、経営者一人では回らなくなるほど仕事が増えてきたからかと思います。ただでさえ忙しいのに、人を雇うための準備を全て自力で対応するのは、体がいくつあっても足りません。
勤怠管理の仕方や就業規則の内容がズレていると、法令違反をする土壌ができてしまうので、最初の段階で無用な法令違反をしないような仕組みを作っておいた方が、安心して売上と利益に直結する業務に専念できます。
少なくとも、人事労務部ができるまでは相談できる社労士がいると安心です。
会社設立前後で社労士に相談・依頼する3つのメリット
社労士は、人に関するトラブルを未然に予防する仕組みを作るのが得意です。
人を雇うために法律上・手続き上必要な準備ができる
上で触れたとおり、人を雇う際は勤怠管理や給与計算、雇用契約書などの準備をしなければなりません。契約や準備の内容が適法であるか、自社に不利ではないか、という点を確かめるために、社労士に対応やレビューをお願いするのが無難です。
手続き忘れや意図しない法令違反を防げる
給与計算や社会保険の手続きについて、いつまでに何をしなければいけないのか誰かが教えてくれるわけはないのがつらいところです。社会保険1つとっても、新規加入だけではなくて、人が入社・退社するときや、年に一度保険料を計算するときなどに手続きが発生します。
もちろんご自身で対応することも可能ですが、「忘れている手続きがあるんじゃないか」と薄々感じながら過ごすのは健全ではありません。
社労士と顧問契約をすることで、手続きの忘れや予期せぬ法令違反を防げます。
法令遵守を怠ると起こり得るトラブルの具体例として、以下2記事をご紹介します。
売上・利益に直結する業務に専念できる
バックオフィス業務は、責任が多く失敗すると関係者の信用を失ったり、行政処分を受けたりします。しかも、頑張って勉強をしたり業務をしたりしても売上と利益が増えるわけではないのが辛いところです。
であれば、ご自身で対応せずに、人事労務に詳しい人に任せた方が安心です。人を雇用すると、平均で40万円程度かかる(令和3年就労条件総合調査の概況より)ので、社労士にスポットまたは顧問契約をして依頼をした方が、専門知識の面でもコスト面でも合理的です。
会社設立時に社労士に依頼できる手続きと費用相場一覧
会社設立前後で社労士に依頼できる手続きをご紹介します。
社労士に依頼するかどうかはさておき、以下の手続きには期限があるので早めに対応しましょう。
- 法人化した場合:社会保険に関する手続き|期限は会社設立から5日以内
- 人を雇用した場合:労働保険に関する手続き|企業は雇用をしてから10日以内
会社設立時の社会保険・労働保険については、以下の記事で詳しく説明します。
社会保険に関する手続き(法人化したら必ず必要)
手続き | 説明 | 社労士費用相場 |
健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 会社が初めて健康保険と厚生年金保険の適用を受けるときの手続き。1度対応すればOK。 | 3万円~5万円 |
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 | 健康保険と厚生年金保険の被保険者になる際に必要な手続き。人を雇用するたびに対応が必要。 | 1人あたり 1万円~2万円 |
健康保険被扶養者(異動)届 | 被保険者の家族を扶養に入れたり、扶養を外れたりするときなどに必要な手続き。 | 1人あたり 1万円~2万円 |
健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書・同意書 | 任意適用事業所として、健康保険と厚生年金保険の適用を受けるときの手続き。 | – |
健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付申出書 | 保険料を口座振替で支払いたいときの手続き。 | – |
労働保険に関する手続き(人を雇うなら必ず必要)
手続き | 説明 | 社労士費用相場 |
保険関係成立届 | 事業所と従業員の間に保険関係が成立した際に提出する書類。 | 1万円~5万円 |
概算保険料申告書 | 概算の労働保険料を計算して、申告、納付する際に必要な書類。 | 1万円~5万円 |
雇用保険適用事務所設置届 | 雇用保険の適用事務所になった際に提出する書類。 | 1万円~3万円 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 従業員が被保険者になる際に提出する書類。 | 1人あたり 1万円~3万円 |
上記の社会保険の手続き、労働保険の手続きを、それぞれセット料金でやっていることがよくあります(結局複数の書類を提出しなければならないため)。書類の単価をイメージするために個別に相場を書いてはいますが、セットで頼むともう少し安くなることもあり得ます。
社労士事務所の料金体系、顧問契約の有無、従業員の人数で費用が変動するので、見積もりをした上で依頼をしてください。
会社設立〜雇用以降で依頼できる手続き
会社設立以降、特に人を雇用する前後で社労士に依頼するといい手続きをご紹介します。
- 給与計算の代理
- 労働保険・社会保険手続きの代理(上で説明した以外の手続きも対応)
- 就業規則の作成
- 賃金制度・評価制度の作成
- 助成金の申請代理
- 労災申請の代理
上記の手続きは、自力でもできるが、対応が正しいのか正しくないのか確認しにくい手続きです。従業員の人数が少ないうちはご自身で対応される経営者も多いですが、どこかのタイミングで社労士への外注や、従業員への引き継ぎを検討することになります。
社労士に依頼できる業務については、以下の記事で詳しくご説明しています。
社労士に相談・依頼できることは、おおまかに以下の3種類です。 手続きの外注:給与計算、労働・社会保険、勤怠管理、助成金 など 社内のルールに関する相談:従業員とのトラブルを未然に防ぐ仕組みづくり全般を相談可能 人事労務[…]
【目的別】会社設立に関して社労士以外で相談できる先
社労士に相談できる内容は、人事労務に関する内容がメインです。他の相談がしたい場合は、以下の相談先も併せてご検討ください。
- 司法書士|登記申請代理・定款作成代理
- 行政書士|許認可手続き代理・定款作成代理
- 税理士|税務申告代理・資金調達の相談
- 法務局|登記のやり方を相談できる
- 商工会議所|無料で幅広い相談ができる
- 日本政策金融公庫|融資に関する相談ができる
司法書士|登記申請代理・定款作成代理
司法書士は、会社の設立に必要となる商業登記や法人登記の申請代理に対応しています。また、会社の定款作成や変更手続きの代理も行うことが可能です。
行政書士|許認可手続き代理・定款作成代理
行政書士の主な役割は、行政手続きの代理や許認可の取得支援です。特定の業種で会社を設立する際や事業を展開する上で必要となる許認可の取得に関する相談やサポートが受けられます。また、会社の定款作成の代理も行うことができます。
税理士|税務申告代理・資金調達の相談
税理士は、会社の税務に関する相談や税務申告の代理を行っています。資金調達や経営戦略に関する税務上のアドバイスも受けられるため、経営計画の策定や税務対策の際に頼りになる相談相手です。
法務局|登記のやり方を相談できる
法務局は国の地方組織であり、主に商業登記や法人登記といった登記申請を中心に業務を行っています。登記申請の手続き方法や必要書類に関する相談が可能で、直接申請書類の作成や修正のアドバイスを受けることができます。手続きの代理はできないので、自力で登記をしたい方におすすめです。
商工会議所|無料で幅広い相談ができる
商工会議所は、中小企業や国際的事業の支援を行う組織であり、創業に関する幅広い相談が可能です。特に創業支援窓口が設けられている場所もあり、専門家との無料の相談が受けられることが特徴です。
日本政策金融公庫|融資に関する相談ができる
日本政策金融公庫は公的機関であり、主に中小企業向けの融資を行っています。新しい事業を始める際の融資や、創業計画書の作成支援など、創業に関するさまざまなサポートが受けられます。特に資金調達が必要な際には、この機関との相談がおすすめです。
まとめ
会社設立時に社労士に依頼できることは、社会保険や労働保険に初めて加入する際の手続きの代理です。この手続きには期限があるので、社労士業務の中でも依頼をする必要性・緊急性が高いです。
社労士業務は人を雇用した後に発生するものがほとんどなので、初めて人を雇用するときなど、やることが多いタイミングで相談するといいでしょう。