人を1人でも雇っている事業所(≒企業)は、労災保険の適用を受ける手続きをしなければなりません。全ての被雇用者を労災保険に加入させる義務があります。
労災保険の加入手続きを行うにあたって以下のような注意点があります。
- (義務がある方は)雇用保険の手続きも同時に進める
- 別の手続きをしないと事業主は労災保険の保障を受けられない
この記事では、上記のような、人を雇っている方(労災保険の加入手続きをしなければいけない方)が、労災保険の手続きをする際に知っておくべき点をご案内します。
労働保険や雇用保険に加入する義務があるのはどんな人なのか、という点を確認したうえで手続きの進め方をご説明します。困った時の相談先もご案内しています。ぜひご参考ください。
労災保険の加入義務があるのに加入をしなかった場合は、過去に遡って保険料を徴収されるほか、追加で追徴金を請求されます。必要以上に支払い金額が高くなるので、義務があるとわかった段階で手続きを進めましょう。
労災保険の加入条件|加入義務があるのはどんな人?
労災保険の加入義務を把握する場合、立場別に加入義務を確認すると、この後どんな手続きをすればいいのか、理解しやすくなります。
加入の対象になるのは次の3者です。1.事業所(≒企業)、2.被雇用者、3.事業主・役員。
このセクションでの結論は次のとおりです。
- 1人でも雇用している事業所(≒企業)は労災保険の適用を受ける義務がある
- 労災保険の適用を受ける事業所で働く従業員は全員労災保険への加入義務がある
- 事業主や役員など、被雇用者でない人は加入義務がない。任意での加入は可能
詳しく見ていきましょう。
前提:労働保険・雇用保険・労災保険の位置付け
労働保険 | 雇用保険 |
労災保険 |
労働保険には、雇用保険と労災保険があります。初めて労働保険に加入する手続きをする際は、雇用保険と労災保険の手続きを同時に行うとお考えください。
労災保険への加入義務がある事業所(≒企業)とは
1人以上労働者を雇用している事業所(≒企業)は、労災保険への加入義務があります。
労災が発生した際に、労災保険が適用される事業所になるための事業所(適用事業所)になるための手続きをします。
人を雇用していても労災保険への加入義務がない事業所
人を雇用していても、労災保険への加入が義務付けられない事業所があります。
- 暫定任意適用事業
- 適用除外事業
暫定任意適用事業
農林水産の事業の場合は、労災保険への加入が任意になります(暫定任意適用事業)。労働者の過半数の意思によって、労災保険の適用を受けるかどうかを決められます。
暫定任意適用事業にあたるのは、具体的に次の3つです。
1.労働者数5人未満の個人経営の農業であって、特定の危険又は有害な作業を主として行う事業以外のもの
2.労働者を常時は使用することなく、かつ、年間使用延労働者数が300人未満の個人経営の林業
3.労働者数5人未満の個人経営の畜産、養蚕又は水産(総トン数5トン未満の漁船による事業等)の事業
引用元: 労働保険関係の成立と対象者|厚生労働省
適用除外事業
国の直営事業と官公署の事業は労災保険の適用を受けません(労働者災害補償保険法3条2項)。公務員は、公務員災害補償法の適用になるためです。
被雇用者(正社員・パート・アルバイトなど)は全員労災保険の加入対象
労災保険の適用事業所で雇用されている場合、全ての被雇用者は労災保険の加入対象になります。
雇用保険と加入要件が異なるので、間違えないようにしましょう。
労災保険 | 雇用保険 |
全被雇用者 | 以下に該当する被雇用者 1.1週間の所定労働時間が20時間以上である 2.31日以上の雇用見込みがある |
法人事業主・役員・個人事業主は、労災保険への加入が任意
事業主や役員などは、従業員と同じように労災保険に加入できません。労災保険は労災から被雇用者を守る目的の制度だからです。
ただ、建設業のように、事業主であっても被雇用者と同じように、労災にあうリスクが高い方もいらっしゃいます。
そんな方は、特別加入制度を利用することで、任意で労災保険に加入できます(事業主の労災加入は義務ではない)。
事業主の方で労災に遭うリスクを感じている方は、後述『個人事業主や法人の経営陣が労災保険を利用するには、特別加入制度を使う必要がある』をご参考ください。
労災保険の加入手続きの流れ|必要書類・提出先・期限
労災保険に加入する際の流れは次のとおりです。
- 労働基準監督署またはハローワークに、保険関係成立届を提出
- (雇用保険の加入義務がある場合は)雇用保険適用事業所設置届・雇用保険被保険者資格取得届を提出
- 初年度分の概算保険料を申告・納付
2について補足します、以下に該当する方を雇用する場合は、雇用保険の加入手続きも併せて対応しましょう。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上である
- 31日以上の雇用見込みがある
以下、労災保険に加えて雇用保険の加入手続きもご案内します。加入義務がある場合は併せてご対応ください。
前提:業種によって書類の提出先が異なります
業種によって書類の提出先が異なります。ご自身の事業所が、一元適用事業と二元適用事業のどちらに該当するのかをまず確認してください。
説明 | 具体例 | |
一元適用事業 | 労災保険・雇用保険の申請と納付を一元的に扱う事業 | 二元適用事業(下)以外 |
二元適用事業 | 労災保険・雇用保険の申請と納付を別々に扱う事業 | ①都道府県及び市区町村が行う事業 ②①に準ずるものの事業 ③港湾労働法の適用される港湾の運送事業 ④農林・水産の事業 ⑤建設の事業 |
一元適用事業の場合
順序 | 提出書類 | 提出先 |
1 | 保険関係成立届 | 労働基準監督署 |
2(1と同時も可) | 概算保険料申告書 | 以下のいずれか ・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可) |
3 | 雇用保険適用事務所設置届 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
4 | 雇用保険被保険者資格取得届 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
二元適用事業の場合
二元適用事業の場合は、労災保険と雇用保険適用のための手続きを別々に行う必要があります。
労災保険に関する手続き
順序 | 提出書類 | 提出先 |
1 | 保険関係成立届 | ・所轄の労働基準監督署 |
2 | 概算保険料申告書 | 以下のいずれか ・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可) |
雇用保険に関する手続き
順序 | 提出書類 | 提出先 |
1 | 保険関係成立届 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
2(1と同時も可) | 概算保険料申告書 | 以下のいずれか ・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可) |
3(1と同時も可) | 雇用保険適用事務所設置届 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
4(1と同時も可) | 雇用保険被保険者資格取得届 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
保険関係成立届
一元適用事業の場合
手続き名 | 保険関係成立届 |
入手方法・入手先 | 労働基準監督署もしくはハローワークの窓口でもらうか郵送してもらう |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
添付書類・必要書類 | 1.事業所が実在することを証明するための書類 (法人は法人登記簿謄本のコピー、個人事業主は代表者の住民票) 2.労働保険概算保険料申告書 |
提出先 | 所轄の労働基準監督署 |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 保険関係が成立した日から10日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
二元適用事業の場合
手続き名 | 保険関係成立届 |
入手方法・入手先 | 労働基準監督署もしくはハローワークの窓口でもらうか郵送してもらう |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
添付書類・必要書類 | 1.事業所が実在することを証明するための書類 (法人は法人登記簿謄本のコピー、個人事業主は代表者の住民票) 2.労働保険概算保険料申告書 |
提出先 | 以下にそれぞれ提出 所轄の労働基準監督署(労災保険に関する手続き) 管轄の公共職業安定所(雇用保険に関する手続き) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 保険関係が成立した日から10日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
概算保険料申告書
一元適用事業の場合
手続き名 | 概算保険料申告書 |
入手方法・入手先 | 労働基準監督署もしくはハローワークの窓口でもらうか郵送してもらう |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
添付書類・必要書類 | – |
提出先 | 以下のいずれか ・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 被保険者を雇用した翌日から50日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
二元適用事業の場合
手続き名 | 概算保険料申告書 |
入手方法・入手先 | 労働基準監督署もしくはハローワークの窓口でもらうか郵送してもらう |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
添付書類・必要書類 | – |
提出先 | ①②それぞれ提出 【①労災保険の手続き】 以下のいずれか ・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可) 【②雇用保険の手続き】 以下のいずれか ・日本銀行(代理店、歳入代理店(全国の銀行・信用金庫の本店又は支店、郵便局)でも可) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 被保険者を雇用した翌日から50日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
雇用保険適用事務所設置届
手続き名 | 雇用保険適用事務所設置届 |
入手方法・入手先 | 雇用保険適用事務所設置届|内閣府 |
記入例 | 記入例|厚生労働省 |
添付書類・必要書類 | 1.雇用保険被保険者資格取得届 2.労働保険関係成立届の事業主控え(労働基準監督署が受理したもの) 3.労働者の雇用・賃金の支払状況等を証明できる書類 (労働者名簿、賃金台帳、出勤簿又はタイムカード、雇用契約書 のいずれか) 4.事業の実態がわかる書類 (登記事項証明書、事業許可証、工事契約書、不動産契約書、源泉徴収簿、他の社会保険の適用関係書類) |
提出先 | 管轄の公共職業安定所(ハローワーク) |
提出方法 | 郵送、窓口持参、電子申請 |
提出期限 | 加入対象の従業員を雇用してから10日以内 |
詳細 ※手続きをする際に必ずご確認ください | 手続きの詳細説明 |
新たに従業員を雇用するたびに、労災保険の被保険者にする手続きをする必要はない
社会保険や雇用保険の場合は、人を雇用するたびに、新しく採用した人を被保険者にするための手続きが必要です。労災保険の場合、被保険者にするための手続きは必要ありません。
個人事業主や法人の経営陣が労災保険を利用するには、特別加入制度を使う必要がある
雇用者側の方が労災保険の保障を受けようと思う場合は、特別加入制度を利用しなければなりません。
以下、事業主が労災保険に加入する際のポイントについて以下4点をご説明します。
- 事業主・役員は、従業員とは別の加入手続きをしなければならない
- 労災保険への加入は任意
- 労災保険に加入していない個人事業主はどうなる?
- 労災保険に特別加入する方法
事業主・役員は、従業員とは別の加入手続きをしなければならない
労災保険は被雇用者を労災から守る趣旨の制度なので、事業主や役員のような使用者の立場にある人は、特別加入制度を利用しないと労災保険に加入できません。
特別加入制度とは、事業主であっても被雇用者と同じような業務に携わっていて、労災にあうリスクがある人を守るための制度です。手続きをすることで、事業主も労災保険の保障を受けられるようになります。
労災保険への加入は任意
特別加入制度を利用するかどうかは任意です。労災にあうリスクが低ければ急いで手続きをする必要はないものの、手続きを忘れているまま労災にあってしまえば収入が途切れる恐れがあります。労災にあうリスクが高い職業に従事している方は忘れずに手続きをしましょう。
労災保険に加入していない個人事業主はどうなる?
特別加入制度を利用するかどうかは任意なので、加入しなくても行政処分や刑事処分の対象にはなりません。
労災保険に加入しないリスクは主に次の3つです。
- 建設業など、労災保険に加入していないと現場に入れない業種・職種がある
- 無保険状態で働くことになる。労災に健康保険は使えないので、民間の保険に加入していなければ療養中の生活費が途切れる恐れがある
- 通勤中の事故も労災扱いになるので、健康保険が使えない恐れがある
労災保険に特別加入する方法
労災保険に特別加入する際は、労働保険事務組合や特別加入団体を介して加入手続きを進める必要があります。
『ご自身の業種(または職種) 労働保険事務組合(または特別加入団体)』などで検索をしてご自身にあった団体を見つける必要があります。
以下の記事にて、労災保険特別加入制度の詳細やメリット、注意点、団体の選び方など、制度の詳細を解説しています。まだ労災保険に加入していない事業主の方は併せてご参考ください。
労災保険の加入手続きに関する相談・外注先
労災保険の加入手続きをしていて不明点がある場合に相談できる先をご紹介します。
- 労災保険相談ダイヤル|労災保険の不明点を気軽に質問できる
- 社労士法人TSC|1年無料で労災保険を含む社会保険手続きを相談・外注し放題
- 社会保険労務士相談ドットコム|相談・外注する社労士を比較できる
労災保険相談ダイヤル|労災保険の不明点を気軽に質問できる
厚生労働省の相談窓口です。加入手続きを含む労災保険の手続き全般について相談できます。
さらに、労災にあった際の対応や、労災保険の対象になるかどうかなど、労災保険に関することなら幅広く質問できます。
電話番号 | 0570-006031 |
受付日時 | 平日9:00~17:00 |
詳細 | 労災保険相談ダイヤル |
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初めて人を雇うタイミングは、社労士に相談・外注するいいタイミングです。
理由を少しご説明します。初めて人を雇うときは、労災保険への加入以外にも、就業規則や雇用契約書、勤怠管理など、用意しなければいけないものが多数あります。詳細は次の記事でご案内しています。
特に就業規則や雇用契約書は重要で、例えば就業規則に懲戒に関する記載を適切にしていないと、本来は解雇にするのが適切だった場合でも、不当解雇が認められるようなリスクがあります。初めての雇用であれば人件費を出費するのは覚悟がいることかと思います。いい人を採用できればいいですが、雇用してみたら思っていたのと違った、ということもあります。有期雇用や試用期間を定めた上で雇用契約をすれば、不当解雇を主張されるリスクを低くできます。
上記のように、社労士であれば人を雇う際のリスクを想定して、最悪の事態が起きないように対策できます。採用や雇用について相談できる相手を見つけておきたい方は、当サイトよりお申込みいただければ、複数の社労士から提案と見積もりが届きます。
しっくりくる相手を選んで相談できます。
まとめ
人を1人以上雇用している企業は労災保険の適用を受けて、全ての被雇用者を労災保険に加入させなければなりません。
加入義務があるとわかった場合は以下の流れで手続きを進めます。
- 労働基準監督署またはハローワークに、保険関係成立届を提出
- (雇用保険の加入義務がある場合は)雇用保険適用事業所設置届・雇用保険被保険者資格取得届を提出
- 初年度分の概算保険料を申告・納付
上記の手続きをしても事業主は労災保険の保障を受けられません。任意で特別加入制度を利用して労災保険に加入することになります。
労災保険を含む社会保険の手続きは、今後もたびたびしなければいけません。これらの手続きや、人を雇う際に用意するべきもの(就業規則など)については、社労士に相談したり、任せたりできます。
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