社労士の独占業務である1号業務と2号業務とは?違反時の罰則と他士業との関係

社労士には独占業務があり、社労士以外の人物が独占業務を報酬を得て行った場合には、罰則も用意されています。

社労士に依頼する側には罰則こそはありませんが、万が一社労士以外に独占業務を依頼した場合には、間違って処理されたり、行政への認可が認められないなどの不利益を被る可能性も否めません。安いからと言って、安易に社労士以外に社労士業務を依頼してはならないのです。

一方で、社労士の独占業務でも他の士業であれば一部を行えるケースがありますし、社労士も他の士業の独占業務を行えば違法行為になります(業際問題と言います)。

今回は社労士の独占業務の内容と、違法になるケース、他士業との関係などについてご説明します。これから社労士への依頼を考えている方はぜひ参考にしてみてください。

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社労士の業務は大きく分けて3種類

社会保険労務士法第2条では、社労士業務について定められており、大きく3種類の業務に分けることができます。

  • 1号業務
    労働保険の書類の作成・提出代行、健康保険や雇用保険などへの加入・脱退手続き、給付手続きや助成金の申請など(社会保険労務士法第2条1項1号)
  • 2号業務
    労働社会保険諸法令に従う帳簿書類の作成、労働者名簿や賃金台帳の作成請負、就業規則や各種労使協定の作成 など(社会保険労務士法第2条1項2号)
  • 3号業務
    労務管理や社会保険などに関する相談、アドバイス、コンサルティングなど(社会保険労務士法第2条1項3号)

社労士の独占業務|1号業務と2号業務の内容

早速、社労士の独占業務と内容についてご説明します。

上記の社労士業務のうち、1号業務と2号業務が独占業務となります。このことは社会保険労務士法第27条の業務の制限によって決められています。

(業務の制限)

第二十七条 社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。

(開業社会保険労務士の使用人等の秘密を守る義務)

引用:「社会保険労務士法第27条

社労士の独占業務についてもう少し詳しくご説明すると、具体的に以下の業務内容が該当します。

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1号業務の主な内容|申請業務と手続き代理

  • 労働及び社会保険に関する法令に基づいた申請書等の作成
  • 申請書等に関する手続き代行
  • 労働及び社会保険に関する法令に基づいた、申請、届出、報告、審査請求等の代理 など

社労士の1号業務は主に上記の内容となります。簡単にまとめると、労働や社会保険に関する法律に基づいた申請書の作成や手続き代行が社労士にしかできない独占業務になるのです。

社労士ができる申請・届出等の例

  • 健康保険・厚生年金保険の算定基礎届け/月額変更届け
  • 労働保険の年度更新手続き
  • 健康保険の給付申請手続き
  • 労災保険の休養給付・第三者行為の給付手続き
  • 死傷病報告等の報告書の作成と手続き
  • 解雇予定除外認定申請手続き
  • 年金裁定請求手続き
  • 審査請求・異議申立・再審査請求などの申請手続き
  • 各種助成金申請手続き
  • 労働者派遣事業などの許可申請手続き
  • 求人申込みの事務代理

参考:東京都社会保険労務士会

これらに合わせて、助成金の申請も原則的に社労士しかできない独占業務となります。

2号業務の主な内容|労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成

2号業務は、労働及び社会保険に関する法令に基づいた帳簿作成業務となります。労働保険関連の帳簿には、『法定三帳簿』と言われる労働者名簿・賃金台帳・出勤簿があり、これらの作成代行は社労士の独占業務です。

また、常時10名以上の従業員を使用する場合には、就業規則の作成が義務付けられていますが、就業規則の作成も社労士の独占業務です。

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社労士の独占業務を社労士以外が行えるケースと違反時の罰則

上記でお伝えした社労士の独占業務を社労士資格を持たない人物が行った場合の罰則と、限られた条件で行えるケースをご紹介します。

社労士以外が独占業務を行った場合の罰則

第三十二条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

一 偽りその他不正の手段により第十四条の二第一項の規定による登録を受けた者

二 第二十一条又は第二十七条の二の規定に違反した者

三 第二十三条の二(第二十五条の二十において準用する場合を含む。)の規定に違反した者

四 第二十五条の二若しくは第二十五条の三又は第二十五条の二十四第一項の規定による業務の停止の処分に違反した者

五 第二十五条の四十二第一項(第二十五条の四十五の二において準用する場合を含む。)の規定に違反した者

六 第二十七条の規定に違反した者

引用:「社会保険労務士法第32条の2|e-Gov

社労士の独占業務を社労士以外が行った場合、社会保険労務士法第32条で定められている通りの【1年以下の懲役または100万円以下の罰金】を受ける可能性が出てきます。このように、刑事罰も用意されている歴とした違法行為となります。

社労士の独占業務は無償であれば行える?

一方、社労士の独占業務は厳密には『有償独占業務』となっています。あくまで有償(報酬を得て)での業務ですので、言い換えれば無料で社労士業務を行えば違反ではないとうことになります。

ただ、実際に国家資格を有するほどの専門性が高い業務を無償で行ってくれるようなことは現実的には有り得ないでしょう。

一方で、他の業務のついでに社労士の独占業務にまで手を付けるようなことが起こり得ます。特に税理士との間に業際問題(業務が被る問題)が起こることが度々あるのですが、このことについては後述します。

他の士業と社労士独占業務の関係

先ほども触れたように、他の士業でも労働及び社会保険に関する法律に関係してくる士業はいます。

弁護士は1号・2号業務も代行できる

まず、弁護士であれば法律全般に対応することができますので、社労士の独占業務である1号業務・2号業務を行うことができます。

社労士の1号業務・2号業務をメインとして受けている弁護士は少ないでしょうが、企業法務に力を入れている弁護士が業務の1つとして就業規則の作成を引き受けるようなケースは多く見られます。

社労士と税理士の業際問題について

社労士と税理士では関連した業務を受けることが多く、度々業際問題が起こることがあります。特に多いことが従業員の給与計算に関係した業務です。

従業員の給与計算自態はどちらの士業もできるのですが、関連する業務として独占業務が出てきます。

士業独占業務
社労士労務・社会保険等の手続き
税理士年末調整の代行

社労士は給与計算に併せて労務・社会保険等の手続きを行えますが、税理士が行うことは原則できません。一方、社労士が給与計算を行ったついでに年末調整の代行をすることは税理士法に違反してきます。

特に税理士業務は、『無償独占業務』となりますので、他の社労士業務のサービスとして社労士が年末調整代行を行っても違法行為となり得るのです。

できる限り同じ士業の方に業務を一任したいところですが、給与計算も年末調整も社会保険等の手続きも代行してほしいのであれば、社労士と税理士に併せて依頼する必要があります。

社労士に独占業務を依頼した際の費用相場

社労士に業務を依頼するには当然費用がかかってきますね。こちらでは、社労士に独占業務を依頼した場合の費用相場についてご説明します。

顧問契約時の費用相場

人数月額
5~9人5,000円~
10~19人10,000円~30,000円
20~29人20,000円~4,5000円
30~49人40,000円~70,000円
50人~50,000円~80,000円

労士に依頼する場合、下記のスポット契約を結ぶよりも、顧問契約を結んで必要に応じて追加で業務を依頼することが多いです。社労士の顧問契約費用は相場として上記の通りで、従業員の数に応じて金額も変わります。

大事なことは、顧問契約でどの業務まで行ってくれるか?追加依頼した場合に費用が安くなるのか?などの確認です。ただ実際は、独占業務の1号業務は顧問契約だけで事足りることが多いので、まずは顧問契約を前提に考えてみて良いでしょう。

スポット契約での費用相場

就業規則作成50,000~150,000円
就業規則修正20,000~30,000円
諸規定作成30,000~50,000円
各種保険関係の書類1つあたり5,000~10,000円
助成金の申請・着手金0円
・報酬金20%~

スポット契約や顧問契約の追加で業務を依頼する場合には、主に上記の費用がかかります。こちらもあくまでも相場ですので、具合的には依頼しようとしている細かな内容を実際に社労士に伝えて、見積りを出してもらうことをおすすめします。

社労士の独占業務の今後【これから社労士を目指す方へ】

ここまで主に社労士を探す企業様向けに内容を書いてきましたが、これから社労士を目指す方に簡単なアドバイスをさせていただきます。

「社労士は国家資格で独占業務もあるから安泰だ」と、お考えの方はいないでしょうか?

社労士の独占業務は専門知識は必要ですが、システム構築さえ整えば簡易化することもできる業務でもあるため、今後のAI発展などによっては、業務を機械やツールに奪われてくる心配もありますね。

実際、社内での人事労務作業での負担を軽減してくれる人事労務ソフトも多く登場しています。「独占業務があるから」と油断をしていると、どんどん受けられる依頼が減っていくことも考えられるでしょう。

大事なことは3号業務のように、労働や社会保険に関する法律の高い知識から、「どのような経営をすればよりよくなるのか?」「どのような決まりが労働トラブルを防げるか?」などのプラスαのアドバイスができる社労士です。

ただ単に業務を代行するだけの社労士ではなく、追加価値を提供できる社労士を目指すようにしてみてください。

まとめ

社労士の独占業務は1号業務と2号業務の2種類です。

  • 1号業務
    労働保険の書類の作成・提出代行、健康保険や雇用保険などへの加入・脱退手続き、給付手続きや助成金の申請など(社会保険労務士法第2条1項1号)
  • 2号業務
    労働社会保険諸法令に従う帳簿書類の作成、労働者名簿や賃金台帳の作成請負、就業規則や各種労使協定の作成 など(社会保険労務士法第2条1項2号)

社労士以外に独占業務を依頼した場合、依頼先には違法性が出てきますので、安易に社労士以外に独占業務を依頼しないようにしてください。

会社を経営するにあたって、社労士を始めとした多くの士業の力を借りることも多いでしょう。高い専門知識をもち、多くの企業アドバイスをしてきた人物は、長く付き合うことで業務代行だけではなく良きパートナーになってくれます。

社労士選びをおろそかにすることなく、納得できる相手に業務の依頼をしていきましょう。

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